ボディビルにおける薬物使用などによるドーピング問題はこれまでも常に存在していたが、2024年は、よりそれが顕著に見えた1年でもあった。
FWJがナチュラルコンテスト開催へ
JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)は1月、2023年度の大会において1名のアンチドーピング規則違反者を発表、さらに連盟独自で実施した簡易ドーピング検査の結果、8件の違反疑いがあったことを公表した。
さらに同月、2023年10~11月にかけて開催された「IFBB世界フィットネス&ボディビル選手権」におけるアンチドーピング規則違反者がIFBB(国際ボディビルディング・フィットネス連盟)より公表された結果、日本代表としてステージ立ち、当日の審査結果ではそれぞれの階級で2位となっていた五味原領と川中健介の繰り上がり優勝が決まった。
SNSを中心にトレーニーの間でアンチドーピングの話題が過熱する中、日本国内においてはJBBFと対をなすとも言えるボディビル・フィットネスコントスト団体「FWJ(Fitness World Japan)」が7月、2025年よりドーピング検査を行うコンテスト「ナチュラルリージョナル」と「ナチュラルプロクォリファイ」の開催を発表したことも世間を賑わせた。
JBBFがJOC傘下の団体としてアンチドーピングを徹底的に掲げ、独自の簡易ドーピング検査なども導入しながらスポーツとしてのボディビルコンテストを開催してきた一方で、FWJは、ドーピング検査はこれまで行なっていないものの、鮮やかな演出などを含めたショー的な要素も持つコンテストとして、そしてボディビルの最高峰「ミスターオリンピア」へと続く大会として人気を集めている。
ドーピング検査実施有無の観点から、「ナチュラルならJBBFで」というのが多くの人が持つ考えであろうが、FWJも検査を実施するとなると、その考え方は覆されることとなる。2025年のFWJの国内大会においては、4月5日(土)の「West Tokyo Championships 2025」を皮切りに7つの「ナチュラルリージョナル」と1つの「ナチュラルプロクォリファイ」の開催が予定されており、動向に注目していきたい。
また、検査方法についてもさまざまな議論が起こる中で、WNBF(ナチュラルボディビルディング連盟)との提携により大会前のポリグラフ検査(いわゆる嘘発見器)を日本で唯一実施している、ANNBBF(全日本ナチュラルボディビルディング連盟)の日本大会が10月に行なわれた。ボディビル部門では“ライフタイムナチュラル”を掲げる相樂翔が優勝。FWJの大会への出場経験があり、「ジュラシックカップ」にも2年連続で出場した男はWNBFプロボディビル世界選手権にも出場し、ヘビー級5位という結果を残した。
ドーピング検査から外国人選手が逃亡
そして、東京開催となった12月の「IFBB世界フィットネス選手権」及び「IFBB男子ワールドカップ」でも、やはりドーピング問題は日本選手団を直撃した。JADA(日本アンチ・ドーピング機構)による厳正なドーピング検査が実施された今大会において、ボディビル85kg以下級を制したアーマド・ルスタム(アラブ首長国連邦)が検査から“逃亡”したと大きな話題となっている。
現時点で事実か否かの確実な情報は不明ながら、同階級でステージに立った木澤大祐や山本俊樹をはじめ何人かの日本代表選手が自身のSNSでその逃亡劇について声を挙げており、また、われわれが撮影したオーバーオール審査の映像を確認すると、審査後に他の選手がステージ上手へとはける中、アーマドのみが下手へと向かう姿が映っている。もし彼が検査を拒否したのであれば当然失格となり、2位の木澤以下の順位が繰り上がることになる。
今季での引退を公表していた木澤は「今大会は順位よりも最後のステージを見ていただきたかった」と、また、これまでパワーリフティング競技でドーピング検査が平等に行なわれなかった現実を経験してきた山本も「この大会に出場する際も、そういう選手が出場するのはわかっていた、こうした事件が起こったとしても驚きはしなかった」と、それぞれ自身のYouTubeで公開した動画内にて冷静に言葉を残している。ただ、特に木澤のラストステージがこういう形になってしまった点について、怒りの感情を持つファンも多いことは想像に難くない。
この件については、正式な発表があった際にあらためて触れたいが、「これを機に、長年提唱してきたアンチドーピングについて皆さんが考えていただけるきかけになったと思う」と木澤が話すように、2025年以降もこの問題は簡単に解決はされず、ボディビル・フィットネス競技が続く限り残っていくものであろう。
少なくとも日本国内においては、こうした“被害”が生まれない競技環境になることを願うと同時に、われわれもこの競技に携わるメディアとして、引き続き考えるきっかけをつくっていきたい。
文・写真/木村雄大