柔軟性と血管年齢には相関があった 日常動作や体調も改善させるストレッチ活用法【解説=八角卓克/監修=バズーカ岡田】




日常生活を送る上では、歩く・座る・起きる・寝るといった動作が必要不可欠。ストレッチによって関節可動域を広げることは、そうした動作をスムーズに行なう上でも効果を発揮するだろう。今回は書籍『世界一細かすぎる筋トレ ストレッチ図鑑』でスポーツ動作パートを担当した八角卓克先生に、ストレッチが日常生活に及ぼす影響についての見解を伺った(監修:日本体育大学教授・岡田隆)。

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筋緊張の緩和や交感神経を整える効果が見込める

――スポーツ競技とセットで考えられることが多いストレッチですが、日常生活にも好影響があると聞きました。

「期待できる効果のひとつとして、筋緊張を緩和することが挙げられます。現代では、安静中でも筋肉が無意識のうちに過緊張状態になっている事例がよく見られます。そういった状態では疲れやすくなったり、動きが悪くなったり、同じパターンの筋発揮ばかりしてしまったりします。安静時の筋緊張(Human resting muscle tone: HRMT)は必要最低限であることが望ましいでしょう。同じ姿勢でいることが苦手な人、座っている時に頻繁に姿勢を変える人はHRMTが高い可能性があります」

――筋肉が緊張状態にあると、デメリットが大きいのですね。

「はい。緊張状態が続き、起き上がるなどの簡単な動作(低閾値での運動)を上手く制御できないと、腰痛などを誘発しやすいと言われています。ストレッチによって関節可動域を改善することで、私生活を楽に行なうことが可能になると考えられます。もちろん、器質的原因がない肩こりや頚部の痛みなど、慢性的な不調の改善にも効果が見込めると思います」

――他にはどのような効果が考えられますか。

「血管の状態改善はストレッチによる主な効果のひとつです。じつは日本人を対象とした研究で、体幹の柔軟性の欠如と血管年齢には相関関係があることがわかっています。中高年層で体幹の柔軟性が乏しい人は、動脈も硬い傾向にありますね。ストレッチを継続的に実施することで、動脈の硬さが低下するという報告もあり、ストレッチによって血管のステータスが改善することが見込めます」

――血管にも効果があるんですね。

「ただし、ストレッチの継続で動脈は柔らかくなりますが、中断するとその効果は徐々に失われ、元の状態に戻る可能性があるとの報告もあります。現状、伸長時間や伸長強度など変数の最適解は解明されていないので、引き続き研究が必要な領域と言えます」

――ストレッチにはリラックス効果がある印象がありますが、その点ではいかがでしょうか。

「筋肉が緊張している状態では交感神経が優位になるため、ストレッチで副交感神経が優位な状態をつくることで、リラクゼーションへの効果が期待できると思います。ストレッチの前後で気分の変化を調べた研究は少ないですが、全身のストレッチを30分間実施すると不安感の低下や高揚感の向上といったメンタルへの効果が期待できるといった報告があります」

――睡眠への影響はいかがでしょうか。

「この分野は研究数が非常に不足していまして、客観的なデータをもとに何かしらの判断をすることは難しいです。たとえば、50~75歳の過体重・閉経後の女性を対象に、強度の低いストレッチを1年間継続してデータを記録した研究があります。結果は睡眠薬の使用が減ったため、睡眠の質を改善する可能性があるとしていますが、日中の眠気など他の項目では変化しなかったものもありました」

――1日数分のストレッチであれば、日常に取り入れやすいのもメリットですね。

「そうですね。特別な道具も必要ありませんから、ストレッチを習慣にすると健康的な生活を送るきっかけになると思います。人間の体は加齢とともに硬くなっていくので、それにともなって腰痛や肩こりなどの不調を引き起こし、それがストレスになって交感神経が活性化して……といった具合で負の連鎖が起こりやすいと言えます。ですからストレッチは体の不調を改善する入口になるのではないかと考えています」

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