佐久間編集長のパーソナルトレーナー百人斬られ(仮)Vol.45~小野明洋 前編




VITUP!編集長・佐久間が全国のパーソナルトレーナーさんを巡っていく「パーソナルトレーナー百人斬られ(仮)」。今回登場するのはミット打ちでスポーツパフォーマンスを上げていくという、珍しいトレーニングを取り入れている小野明洋トレーナー。もともとは「運動オンチだった」小野トレーナーがいかにしてトレーナー道にたどり着いたのか? 前編ではその歩みを紹介していきます。

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小野明洋トレーナーは現在、パフォーマンスコーチ、パーソナルトレーナー(NSCA認定)、ムーブメントコーチ(SoM認定)として、スポーツ選手のパフォーマンスアップや一般の方の運動能力向上に尽力しています。パーソナルトレーナーになる以前は、総合格闘技やキックボクシングのプロとしても試合に出場……こう書くと、スポーツ一筋で生きてきたように思えるかもしれませんが、実際には真逆で「運動は大の苦手でした」と言います。

高知県の過疎化が進む地域で育った小野さんは、中学時代には野球部に所属します。決して野球少年だったというわけではありません。中学は一学年わずか37人という少数で、部活動が義務化されていて、男子が入れる部活が野球、卓球、ブラスバンドの3つしかないという状況から、友人とともに野球部に入部したのでした。

「もちろん、やるからにはうまくなりたいと思っていました。でも実際は同学年で一番ヘタどころか、下の学年を入れても一番ヘタクソでした。だから中学を卒業したら“もう運動なんかやらない”というくらいの気持ちでした」

運動はやらないと決めた小野さんの気持ちに変化をもたらしたのはプロレスでした。高校時代、たまたま目にしたプロレス中継で、大きな体で躍動する選手に魅了されて、憧れの気持ちをいだき、その後の人生が変わっていきます。

「たまたまテレビで三沢光晴さんと川田利明さんの三冠戦を目にしまして、“これはすごい”と驚きました。体を動かすことで、ここでまで人を感動させることができるのかと思って、いずれはそういうものをやってみたいと思うようになったんです」

小野さんは大阪の大学に入学後、サンボ部に入部。さらにはシュートボクシングジムにも入会し、格闘技の世界にのめり込んでいきます。

「格闘技を始めてみたものの、運動は苦手だし、筋トレもまともにしたことがない。そうしたなかで、どうしたら自分が強くなれるだろう? どうしたらパンチ、キックの威力が上がるのだろう?と考えたときに、物理の考え方を使ってみようと思ったんです。いわゆる、作用・反作用です。地面を押したらどう返ってくるのか? それを力に変えるのはどうしたらいいのか?と考えて、うまく力発揮できるようになっていって、打撃には自信が持てるようになりました」

大学時代には格闘技と並行して、水泳のインストラクターとしても活動。運動は苦手だったものの、高知に住んでいた頃、川遊びで自然と泳ぎをマスターしていたことが生きてきました。泳ぎを教えるときもどうやったら水をしっかり押せるかと、機能的な体の使い方を考えながら指導することで成果を上げていきました。

こうして体の機能的な使い方、力発揮を身につけていった小野さんは、アマチュア大会で実績を積み、総合格闘技、キックボクシングでプロデビュー。自他ともに認める運動オンチからプロ選手への道を切り開いたのでした。

プロ格闘家を引退したのち、小野さんはトレーナーの道へと進みます。指導のモットーは「脱・運動オンチ」。これまで自分がやってきたことに加えて、SCHOOL of MOVEMENT(SoM)代表の朝倉全紀さんとの出会いにより、トレーナーとしての方向性は確かなものになっていきました。

「トレーナーを始めて2年目くらいのときに、SoM代表の朝倉さんと出会って、ムーブメントファンダメンタルズの講習に参加しました。ムーブメントファンダメンタルズは、どうしたら安全かつパワフルに体を動かせるのかという運動理論です。もともと僕は物理で考えていたけど、そのときは前方向しか考えていなかったんです。ムーブメントファンダメンタルズでは、前、後ろ、横、斜め、どの方向に対しても、しっかり考えながら体を動かすことを目標としています」

小野さんはこのムーブメントファンダメンタルズを習得するトレーニングとして、格闘技のミット打ちを用いた“ストライクムーブメント”を考案し、陸上選手やスキー選手、バスケットボール選手やサッカー選手のパフォーマンスアップを実現しています。

「運動学習において、あえてエラーを起こさせることがじつは成功の近道だという考え方があります。もちろん、危険なエラー、ケガをするようなエラーではなくて、いわゆる失敗です。失敗したほうがそれを修正しようと自己学習できる。ムーブメントファンダメンタルズでは指導の中であえてエラーを出し、それによってエラーを安全に、かつ主観的に認知出来るようなプログラムデザインを構築しています。僕らトレーナーは、上手に失敗させるという事も仕事の一つだと思っています。ミット打ちは格闘技の選手以外はほとんど経験したことがないので、他のスポーツ選手がやるとエラーが出やすい。ミットを打てばいい音が出ると思っても実際はなかなか出ない。じゃあどの角度、どの位置から打てばいいのかと自分で修正していくことで、それが競技での動きにもつながってきます」

運動が苦手だった自分でも、体の機能的な使い方を覚えたことでプロ選手になることができた。だから運動が苦手だと思っている人にもそれを伝えていきたいし、壁に当たっているスポーツにも一つのヒントとして伝えていきたい。小野さんの今後の目標は、もっとたくさんの人にストライクムーブメントを知ってもらい、伝えていくこと。

「ミット打ちだけをやっていればいいわけではなくて、こうやって動くためにはここの筋肉、筋力が必要なんだということを知れば、必要な筋トレをやろうという気持ちになると思います。とくにスポーツ選手に経験してもらいたいですし、かつての僕のように運動が得意ではない人たちも体験してほしい。たくさんの人にストライクムーブメント、ムーブメントファンダメンタルズを知ってもらって、体験してもらうというのが今の目標です。将来的にはトレーニングの一つとして、自然とミット打ちが選択肢に入るようになることが大きな目標です」

というわけで今回はここまで。次回は実際に小野さん指導のもと、ストライクムーブメントを体験します。

(PROFILE)
小野明洋(おの・あきひろ)
「脱・運動オンチ」を合言葉に、動きの本質にアプローチするトレーニングを指導。パフォーマンスコーチ、パーソナルトレーナー(NSCA認定)、ムーブメントコーチ(SoM認定)として、競技者から一般の方まで幅広くサポートしている。かつては自身も運動が苦手だったが、その壁を乗り越えてキックボクシング、総合格闘技の元プロ格闘家として活躍した経歴を持つ。現在はその経験を活かし、誰にでも再現可能な動きの習得法を探求している。パンチやキックといった格闘技の動きを通じて感覚の再構築を促す”ストライクムーブメント”を提案。他競技への応用や、動作に悩む人のブレイクスルーを支援している。
(パーソナル情報)
[料金]
◆ パーソナルセッション
16,500円/1時間◆ ペアセッション(2名)
22,000円/1時間(1名あたり、11,000円)◆ その他
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佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。