ステージ上では鬼の形相で力を込め、自慢の筋肉を押し出しながら、サムライのような凛とした美しさで会場をどよめかせる。「ちょっと恐そうな人だな…」と思いながら大会後のロビーで声を掛けてみると、「とにかく、ワクワクで楽しかったです!楽しみだけで出ていましたよ(笑)」と、ステージ上とはうって変わってにこやかな笑みで取材に応じてくれた。
【フォト&ムービー】モリモリの筋肉で会場を沸かせる富沢のボディ
彼女の名は富沢理恵、55歳。9月7日に行われた「第29回日本クラス別ボディビル選手権」(@千葉市民会館)の女子フィジーク163cm以下級を制した、日本随一の筋肉女子だ。昨年、東京クラス別選手権でいきなりその姿を現し、158cm超級で優勝。東京選手権2位、日本選手権10位、ゴールドジムジャパンカップ優勝と、ぐいぐいと階段を昇ってきた。
実質競技2年目で階級日本一、しかもこの女子フィジークでは4度の日本一を誇る澤田めぐみ(64)を制しての優勝であり、大きな風穴を開けた大金星である。
「表彰台に昇れたらなとは思っていましたが、ビックリです!正直、自分の中ではまだまだ絞りが甘いなと。ただ、澤田さんとはこれまでも隣に並ぶことがあり、とにかくバキバキな身体をしています。そこで戦っても、通用しない、同じ土俵では戦えないと思っていました。私は筋肉のデカさで勝負するタイプだと思うので、今回は初めてカーボアップにも挑戦し、とにかく重量感を出して自分の良さを打ち出していこうと思っていました」
結果としてその狙いはドンピシャにはまった。本人も自覚するように絞りや筋肉の質感などでは澤田に分があったように見えたが、筋肉量では富沢が確実に勝った印象。「デカい!」という言葉が似合うモリモリとしたボディは、ここ数年、女子フィジーク界になかなか現れなかったタイプのように思う。
一方で、トップ選手としての完成度はまだ課題も多い。ただし、裏を返せば、ノビシロが満載ということだ。
「東京選手権は2年連続2位で、負けて悔しくないと言ったら嘘にはなりますが、『負けてもしょうがないな』と思う要素はたくさんあり、順位は納得はしていました。課題はやはりポージングです。いろいろな方に指摘されたのが、『どこを見せてるの?』ということ。ポーズをとっていてもちゃんと審査員のほうを向いていないこともあり、見直すととにかくひどかったんですよ。そういう意味では、女子フィジーク選手としてまだホンモノだとは思っていません。もっと大会にも慣れて、ちゃんとホンモノになっていきたいですね」
10月には、無差別級での日本一を決する日本女子フィジーク選手権が東京で行われる。昨年は10位だったが、同2位だった澤田を破っての今回の戴冠ということで、周囲の期待も大きいだろう。
「まずは、とにかく自分らしさを忘れずに楽しもうと思います。今年も一流の選手たちと並ぶことになるので、失礼のない身体で挑みたいですね」