アップアップガールズ(プロレス)の渡辺未詩は、今年のお正月まで「絶対王者」として東京女子プロレスの頂点に君臨していた。

昨年3月、両国国技館で団体最高峰のプリンセス・オブ・プリンセス王座を初戴冠してから、防衛を重ねるたびにどんどん強くなっていく、という理想のチャンピオンロードを驀進。しばらくは誰も超えることはできないのではないか、というムードが漂いはじめていた。
しかし、1月4日の後楽園ホールで元チャンピオンの瑞希にフォール負け。年始一発目の試合で王座陥落という、なんとも幸先の悪いお正月になってしまった。
プロボクシングの世界や、男子のプロレス団体でもそうなのだが、チャンピオンは防衛に失敗してもリターンマッチの権利が与えられ、タイミング次第ではすぐに奪還のチャンスが巡ってくる。しかし、東京女子プロレスではそのシステムを導入していないので、ベルトを失った場合、本当になにもなくなってしまう。自分でなにかを見つけない限りは闘いのテーマすら見失いかねないのだ。
年をまたいで最強ロードを突き進んでいた渡辺未詩はどこに向かっていくのか? そのモチベーションやメンタルコントロールがちょっと心配になった。実際、ベルトを失ったことで大会の前半戦にカードが組まれることが増えた。タイトル戦線とはまったく関係ない立ち位置、である。

そんなある日、後楽園ホールで取材をしていたら、そーっと渡辺未詩が記者席エリアにやってきて「ここから見ていていいですか?」と聞いてきた。自分の試合が終わったあとから、メインイベントまでずっと観戦している。なるほど、いままではチャンピオンとしてメインに試合が組まれることが多かったから、こうやって他の選手の試合を客席から俯瞰で眺めたりする時間的な余裕もなかったけれど、いまなら、こうやって見られる。勉強熱心だな、と感心していたのだが、渡辺未詩は「いやいや、そんな勉強とかではなかったですよ、アハハハ!」と笑い飛ばした。
「私はもともとプロレスファンだったわけではないので、後楽園ホールの客席からプロレスを見たことがなくて、いきなりリングに立ってしまったんですよ。だから数年前にはじめて客席から見て『後楽園ホールってこんなに見やすいんだ!』って感動して。そんなこともあって、ちょっと客観的にプロレスを見てみよう、と思ったんですよ。そのときがベルトを落としてからはじめての後楽園だったから、黙っておとなしく見ていました。だから勉強しているように見えたのかもしれないですけど、ワーワー、大きな声を出して見ていることもありますからね(笑)。ただ単に楽しんでいるだけなんですけど、それこそが私がベルトを落としても、前を向いていられるようになった大きな理由のひとつなんです」
孤高の王者がベルトを失ってすぐに見つけた「新しい生き方」とは?