己を奮い立たせ、挑戦を実行するまでにはいくつもの壁がある。それを見事に払いのけ、栄光をつかんだ男がいる。
自衛官と防衛大生のみが挑戦できる特別な舞台「自衛隊プレミアムボディ」(8月10日開催)。総合クラス陸上自衛隊でグランプリに輝いたのは、自衛隊に所属する医師・樋口泰亮(31)だった。
今年が初出場だった樋口は、上位を狙う気持ちはあったものの「優勝できるとは正直思っていなかった」と振り返る。医師として忙しい日々を送る中で挑戦を決めた背景には、学生時代からの「表現への情熱」があった。ブレイクダンスに打ち込んだ青春時代。ヘッドスピンを得意技とするほど熱中したが、医師になった後は練習環境が整わず、ダンスに代わる新たな情熱の対象として筋トレに出会った。そこから7年、日々の努力が今回の快挙へとつながった。
「医師としての知識だけでは不十分でした。実際に大会で結果を残している選手から直接学ぶことで、理論と動作の違いを体感できたんです」。有名なコンテスト選手の講習会にも積極的に参加し、解剖学と現場の理論を融合させて体づくりを磨いてきた。とくに意識したのはウエストから広がるVシェイプで、大円筋を徹底的に鍛え上げたことでバランスの取れたラインを実現した。
さらに勝因のひとつとなったのがポージングだ。「筋量や絞りでは自分より強い選手がいました。でもポージングでの見せ方は徹底的に準備してきました」と明かす。スタジオを借り、後輩とともに繰り返した練習は本番での堂々たる姿勢につながった。筋肉を力ませ過ぎず、リラックスして美しいラインを描けたことが評価を大きく引き寄せた。
本業の医師としての責務と並行しての挑戦は容易ではなかった。今年は専門医試験も重なり、「出ない理由を探せばいくらでもあった」と言う。しかし「やる理由にフォーカスする」ことを信念に掲げ、自らを律してステージに立った。
今後については「総合優勝を狙いたい」と語りつつ、視線はさらに外の大会にも向けられている。すでにAPF(Asia Physique Federation)の日本大会出場権を獲得しており、「限られた人生の時間を有効に使う。挑戦できる時に挑戦する」と決意を新たにしている。
目標に挑み続けるその姿は、医師として、そして自衛官として使命をはたす強さと同時に、ひとりの挑戦者としての情熱を映し出していた。