レスリングにおいて、グレコローマンスタイルとフリースタイルの二刀流で世界一を目指す成國大志選手。日々のトレーニングと両軸でその強さを支えているのが、幼少期から大切にしているボディケアだ。今回は成國選手の挑戦に迫りつつ、“体の感覚” を大切にしているという彼の取り組みについて話を聞いた。
二刀流に挑む理由
女子レスリングがスタートしたばかり、まだオリンピック種目として採用されていなかった1980 年代から1990 年代にかけて、全日本選手権5 回優勝、さらに世界選手権も2 度制した母・晶子(旧姓・飯島)のもと、レスリングを始めた成國大志は幼少期から活躍。全国少年少女選手権で5 度優勝、全国中学生選手権3 連覇を飾ると三重・いなべ総合学園高に進み、1年生でインターハイ王者となったのを皮切りに全国高校生選抜大会、全国グレコローマン選手権などを総なめ。青山学院大学入学後も全日本学生選手権を1 年生から2 連覇した。

その後、子どもの頃から診てもらっていた近所の医院で処方されたかぜ薬に含まれていた禁止薬物が全日本グレコローマン選手権後のドーピング検査で検出され、1 年8 ヵ月の出場停止処分となるも、2019 年全日本学生選手権で復帰して優勝。2021年全日本選手権でも優勝し、2022 年にはアジア選手権を制覇。世界選手権でも初出場ながらフリースタイル70 キロ級で世界チャンピオンとなった。
この快挙達成に周囲は「次は2024 年パリオリンピックでのメダル獲得」と期待したが、成國は誰もが驚く爆弾発言。「次はグレコローマンスタイルで世界チャンピオンを目指します」と宣言した。
「世界チャンピオンになってお袋に並んだと言われましたけど、自分ではそうは思っていません。まだまだ。あっちは2 度優勝していますからね。ならば、自分も世界で2 度優勝するしかない。それも、どうせならフリーとグレコ両方を制したい。そうすれば、追い越したことになるかな。オリンピックはその先の目標ということで」
レスリングには伝統的にグレコローマンスタイルとフリースタイルがあり、歴史の浅い女子はフリースタイルだけだが、男子では世界的に2つのスタイルが行なわれており、オリンピックでも両スタイルが種目として採用されている。
全身で攻撃・防御を行なうフリースタイルに対し、グレコローマンスタイルは下半身への攻撃だけでなく、下半身を使っての防御も禁止。同じレスリングと言っても技術的に大きな違いがあるばかりか、上半身だけのグレコローマンスタイルではよりパワーが必要とされ、筋肉の鍛え方も全く異なる。

かつては、両スタイルでオリンピック金メダリストとなった選手が海外に3 名いるが、フリー、グレコそれぞれに技術が格段に進歩した現代では“二刀流” で成功した例はほぼない。日本では松本篤史が2010 年代に両スタイルで世界選手権に出場。2018年にはフリースタイル92 キロ級で銅メダルを獲得しているが、今では全く考えられないこととなっている。それでも、成國は平然と言ってのけた。
「だからこそ、挑戦してみたい。誰もやったことがないっていいじゃないですか。自分はそっちのほうがオリンピックよりも魅力を感じます。それに、“グレコに転向”と言われますけど、学生時代は両方やっていましたから。自信があるわけじゃないけど、けっこうグレコも好きですよ。自分という“実験台” がどこまでできるか、楽しみです」

トレーニングとストレッチについて
成國は現在スポンサーである「筒井メディカルグループ」の所属となっているが、練習拠点は母が運営するMTX GOLDKIDS(東京・荻窪) のジム。成國は母や妹・琴音とともに小学生から高校生までをレスリング教室や体操教室で指導しており、自身のトレーニングは全員が帰った後の20 時過ぎから23 時頃まで。トレーニングに必要な器具などは揃っているが、たったひとり、夜のトレーニングで日々ストイックに追い込んでいる。
「自分には、もしかしたらひとりでも追い込める才能だけはあるのもしれません」
技術練習は2 週間に1 度程度。大会前には2 日続けてマットでの技術練習を行なったりするが、それもフィジカルトレーニングをやめて、少し体を休ませるため。周りから「フィジカルトレーニングばかりしていないで、もっとレスリングをしろ」と言われるが、成國は自分の練習スタイルを貫いている(本日18時公開の後編に続く)。
◆本記事は日本ストレッチング協会 協会誌「CREATIVE STRETCHING Vol.70」で紹介された内容を再編集したものです。