全日本選手権5 回優勝、さらに世界選手権も2 度制した母・晶子(旧姓・飯島)のもと、レスリングを始めた成國大志。全国少年少女選手権で5 度優勝、全国中学生選手権3 連覇と輝かしい実績を引っ提げ、高校では1年生でインターハイ王者となったのを皮切りに全国高校生選抜大会、全国グレコローマン選手権などを総なめ。青山学院大学入学後も全日本学生選手権を1 年生から2 連覇した。
その後、子どもの頃から診てもらっていた近所の医院で処方されたかぜ薬に含まれていた禁止薬物が全日本グレコローマン選手権後のドーピング検査で検出され、1 年8 ヵ月の出場停止処分となるも、2019 年全日本学生選手権で復帰して優勝。2021年全日本選手権でも優勝し、2022 年にはアジア選手権を制覇。世界選手権でも初出場ながらフリースタイル70 キロ級で世界チャンピオンとなった。
成國は現在、母を越えるべく、そして自身へのチャレンジとして「フリースタイルとグレコローマン、両方で世界一になる」という目標を掲げ鍛錬を積んでいる。

トレーニングとストレッチについて
トレーニングの特徴は、「引く力を鍛える日」、「押す力を鍛える日」、「足腰を鍛える日」とそれぞれテーマを完全に分け、休養日を挟んでローテーションを組んで行なっている。
「毎日5 種目ぐらい、それぞれ15 ~ 20 セットを目安にやっていますが、細かくは決めていません。あらかじめ数や時間を決めると、それをこなす練習になってしまいますから。自分の体と丁寧に相談しながら、いまはここを鍛える必要があるとか、ここが弱っているとか感じたら、ストーリーを考えながらそれに必要なトレーニングを徹底的にやる。体が覚えてしまうと筋肉がつかないので、順番を入れ替えたりもします。すべての種目をとことん限界まで。最後はトレーニング器具を片付けるのも辛いくらいになります」
そんな成國大志に、ズバリ! 「ストレッチの重要性とは?」と質問した。
「アスリートとして競技をしていく上で、絶対に必要なものです。“睡眠”、“食事” とともに、パフォーマンスを上げるためには絶対欠かせない“3 本柱”のひとつでしょう」
睡眠は基本8 時間だが、体と相談してもっと必要なときは寝る。食事も欲するものをバランスよく。その面では「昨年11 月に結婚した妻がよくやってくれています」と感謝している。
「レスリングはもちろん、彼女はスポーツに打ち込んだことがないのに、アスリートの食事についてしっかり勉強してくれて。本当にありがたいです」
そして、ストレッチ。つねに自分の体をいたわり、細かく、しっかりと相談している成國らしい言葉が返ってきた。
「ストレッチもフィジカルトレーニング同様、種目や回数、時間は決めていません、トレーニングの前後、必要な部位をストレッチする種目を考えて、必要な回数、時間をかけて行ないます。ときにはかなり時間をかけることもありますが、すぐに終わることもあります。フィジカルトレーニングでヘトヘトになると、そのままマットの上ですぐに寝てしまいたくなることもありますが、そこは我慢してしっかりやらなければと思っています」
トレーニングでもストレッチでも、その日のメニューを自分で決め、変えていく形を取っている。

両親のサポート
そうした成國ならではのスタイルを可能にしているのは、彼が種類豊富な引き出しを持っているからだろう。それを可能にしているのが、両親である。レスリング元世界チャンピオン……と言っても、黎明期の女子レスラーの技術力は男子と比べたら雲泥の差があり、とにかく走って体力をつけることが一番と指導されてきた。
マットに上がったら相手を動かし続け、敵がバテたところでタックルに入ってポイントを奪う。日本の女子はその戦い方で長い間、世界を制し、時代を築いてきたが、成國晶子もその第一人者だった。
だが、現役を引退後、母は猛勉強し、最新のレスリング技術、トレーニング方法、練習後のケア、アスリートに必要な食事を習得した。レスリング協会で大会の映像録画、配信も行なっている母は、とにかく試合をよく観る。チビッコからトップレベルの試合まで。男子のフリースタイルもグレコローマンスタイルも女子も。YouTube で技術解説があれば、どこの国のコーチ、選手だろうが観まくる。
息子・大志が高校や大学、代表合宿などで新しい技、トレーニングなどを学んでくれば、徹底的に聞き出し、技術力の高い、信頼できるコーチを質問攻めする。
そうした努力のおかげで、MTX GOLDKIDS はこれまでにすべてのカテゴリー(カデット16・17 歳、ジュニア18 ~ 20 歳、シニア20 歳以上)の世界選手権で男女ともチャンピオンを輩出してきた。
一方、成國の体を鍛え上げ、トレーニングのノウハウを叩き込んだのは父・隆大だ。父は柔道整復師、鍼灸師、NSCA 認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、JATI 認定トレーニング上級指導者、健康体力づくり事業財団認定健康運動指導士、中央労働災害防止協会認定ヘルスケアトレーナーなどの資格を有し、プロ野球選手やメジャーリーガー、柔道オリンピック代表選手たちをパーソナルトレーナーとして指導。明治大学ラグビー部やクボタラグビー部などのトレーナーも務め、現在は「南青山PICS 治療院」を開業している超一流のトレーニング・コンディショニングの専門家だ。
「父にはずっとトレーニングを指導してもらい、気になるところがあればすぐに治療してもらってきましたが、一番助かっているのは、自分の体をつねによく観てくれていることです。バランスが悪くないか、どこか痛めてないか、張っているとことはないか。本人でも気づいていないことを、的確にアドバイスしてくれるので、とてもありがたいです」
成國は今年6 月に行なわれた明治杯全日本選抜選手権、グレコローマンスタイル72 kg 級で優勝をはたすと、続くプレーオフで天皇杯全日本選手権王者を撃破。世界選手権日本代表の座を獲得した。
9月13 ~ 21 日、クロアチアで開催された世界選手権では敗退したが、ここでの経験を糧に再出発を誓う。“二刀流での世界一”という前人未到の偉業を達成することができれば、2028 年ロサンゼルスオリンピックのメダルが見えてくるはずだ。
◆本記事は日本ストレッチング協会 協会誌「CREATIVE STRETCHING Vol.70」で紹介された内容を再編集したものです。