10月12日に開催された「第71回日本男子ボディビル選手権大会」で優勝したのは、扇谷開登(おうぎたに・かいと)だ。175cmながら仕上がり90kgを超える筋肉怪獣、普段は消防士として戦う男が、ついに日本トップの座についた。
「嬉しいですし、びっくりですね」と話す28歳。2022年はマスキュラーフィジーク、2023年はクラシックフィジークと徐々に筋量がより重視されるカテゴリーに移行していき、2024年はボディビルの日本選手権初参戦で4位。「この男は、いつか日本の頂点に立つ」という予感はこの競技を見てきた誰もが感じていただろうが、まさかこんなに早くそれが現実になるとは。
「ステージに立っているときは、『俺が一番だ』という気持ちでポーズをとっているんですけど、僕は、自分に自信があるタイプではないんで。課題だったポージングも、去年よりは改善できたなとは思っていますが、『どう見えるかな』『どうかな』って、不安な気持ちでしたよ」
爆発的な筋量を備える一方で、昨年まではポージングの粗が目立ち、自分の良さを十分に見せきれずにいた扇谷。まだまだ改善の余地はあるように思えるが、「強さを見せ、弱さを隠す」技術の向上がステージでのパフォーマンスから感じられた。
「軸をしっかりとって、まず規定ポーズをしっかりととるというところ。去年はそれが全然できていなかったので。あとは、ポーズに入るまでのプレアクション。ここにやっぱり自分の強みである力強さがこれまで出せていなかったので、演出というか、演じることで強みをしっかり出すことに取り組んできました」
圧倒的な力強さにポージング技術が加わりつかんだ日本一。横浜マリントレーニングジムで共に鍛錬を積むライバル・刈川啓志郎(かりかわ・けいしろう/23歳)との一騎打ちはこの日のハイライトであり、もっとも会場が沸いた瞬間となった。
最後に、「今後の目標は?」と問うと、返ってきたのは「特にないんですけど…」という言葉。歴代の王者のように、「より筋トレやボディビルに集中できる環境に移行する可能性は?」と聞くと、「今はないっすね」ときっぱり。
「これまで通り、仕事もしっかりやって、トレーニングも楽しんで…まぁ普通な感じですよ。それが男ですから。そういう中で、もっと漢らしい身体をつくっていけたらなって思います」
青天井の伸びしろで戦い続ける扇谷。1週間後には、木澤大祐と合戸孝二が主催する「ジュラシックカップ」に参戦予定。昨年は刈川に敗れて惜しくも2位、今年はそのリベンジをはたすべく、さらに追い込みをかけていく。