『全長1.47mの大怪獣』。東京女子プロレスの旗揚げメンバーである中島翔子の二つ名は、これ以上なく中島のことを表している。小柄ながらその筋力・運動量は他の追随を許さない。中島はいかにして、他のレスラーも羨むこの身体能力を手に入れたのか。中島の体つくりの秘訣に迫るインタビュー全3回の第2回は、お笑い芸人からプロレスラーになった頃についてのお話。

レスラーになるには10代から練習生にならないといけない…!?
中島翔子は、お笑い芸人として伸び悩んでいるときに、旗揚げを控えた東京女子プロレスのレスラー募集を知ることとなる。
「プロレスの世界に自分が飛び込んだら、自分の世界が変わるだろうなとは思っていました。全日本プロレスの両国国技館大会にももいろクローバーZさんが来場するというので見に行って(2011.10.23)。そのときに三冠ヘビー、世界タッグ、世界ジュニアのベルトの大移動が起きたんですけど、そのことをツイートしたら父親から『レアな試合見に行ったな!』って連絡が来て。そのあとくらいにDDTの後楽園ホール大会(同年11.27)でほもいろクローバーZの緑メンバーオーディションがあったので興味本位で見に行って…それくらいプロレスにのめり込んでいたんです。でも、プロレスラーは10代から練習生にならないとデビューできないみたいなことを比留間さんが言っていて。それで調べてみたら、どの団体も10代の選手がいて、やっぱり無理だよなあと思っていたんです。で、DDTを見に行ったときに、東京女子の新人募集を見かけて生え抜きメンバー3人の写真が載っていたんですが、もう人をほしがっている雰囲気が伝わってきて(笑)。あと『文化系』という言葉にも惹かれて、芸人崩れでも拾ってもらえるかなと思って、当時21歳だったんですが履歴書に経歴をたくさん書いて送りました」
ここから急展開。中島の面接当日にいきなり道場に行くことになった。
「今はまずはちゃんとした面接の機会があってという手順なんですけど、私は面接の日に道場の練習に参加する流れになって…。『道場に運動できる格好で来てください』という連絡が来て、甲田(哲也=東京女子プロレス代表)さんも花粉症なのかボックスティッシュを持っていて、『このあたり初めて来たんです』とかでホテルのロビーで少し話しました。芸人活動のことは何も聞かれず『好きなレスラーは?』と。私は『夏樹☆たいようさん(現・南月たいよう)』と答えたんですけど、男子の選手を聞かれてDDTファンかどうかをチェックしているみたいだったので『飯伏幸太さん』と答えたら、『あ、普通ですね』と言われてそのまま道場です(笑)。芸人に対しては諦めがつかない時期だったんですけど、ずっと続けてきた地方回りも辞めたタイミングだったので、とにかくチャレンジをしようという感じでした」
いきなり道場で練習することになった中島だが、学生時代の運動経験が活きた。
「腕立てや腹筋、スクワットなどを100回ずつ。そしてマット運動はできたので、もっとできるようになりたいと思いましたね。いきなりヘッドロックやリストロックの関節の決め方も教えてもらって、知らない世界だったので面白かったです。基礎のトレーニングから受け身、ヘッドロック、リストロック、バックの取り合いとか全部やらせてもらいました。全く運動をしていなかった人よりはできたのかな…とはいえ、翌日は筋肉痛で動けなくなりましたけど(笑)。それで、次の練習日は足が治らなくてスキップしたんですが、元気になったらすぐ練習に行っていましたね」
技のミスが許せない、すべての所作のスピードを速くするために練習する

2013年8月、中島はDDTのリングでリングデビュー。東京女子プロレスも同年12月に旗揚げした。
「何も知らないままのデビューでしたね。もう少し色々できるようになってからデビューするのかなと思っていたんですけど、(リングデビューは)本当に酷かったですね。リングでの練習が不足していましたし、そもそもロープワークが…。歩幅がずっと合わなかったんです。最初、端から端まで三歩でロープにたどり着く…右足で踏み切ってタンタンターンのリズムでロープに行って、タンタンターンで返ってくるって教えてもらったんですけど、スピードが足りないと四歩になって返りの踏み切りが左足に変わってしまうんですよ。でも、そのおかげで私は右から踏み切るロープワークも、左から踏み切るロープワークもできるようになりました」
その中島は誰もが認める練習の虫。どの選手も、中島はいつも道場にいると口を揃える。
「うーん…技のミスが許せないのが一番で、スピードも速い方が良しとしているからですかね、走るスピードだけではなく、立ち上がりや相手に向き直るときの所作も含めてです。まだ自分の中では無駄な動きがあって、今一番無駄のない動きをしているのは(渡辺)未詩だと思いますよ。あの子だけは全然違いますよ、運動神経が良いだけでなく全部が揃っていますし、キープするために練習もしていますから。私は夏樹☆たいようさんに憧れていて、背の高さは気にせずとにかくがんばっているところを見せられればいいかなと。やられていても、お客さんが楽しんでくれているならいいと思っています。私の理想像にはなれないかもしれないけど、等身大でがんばっていれば何とかなるプロレスの奥深さというか。その“がんばる”の中に、練習が含まれていたという感じですね」