「60歳でもバク転ができる人になりたい」キュートに暴れる“全長1.47mの大怪獣”が描く未来




『全長1.47mの大怪獣』。東京女子プロレスの旗揚げメンバーである中島翔子の二つ名は、これ以上なく中島のことを表している。小柄ながらその筋力・運動量は他の追随を許さない。中島はいかにして、他のレスラーも羨むこの身体能力を手に入れたのか。中島の体つくりの秘訣に迫るインタビュー全3回の最終回は、旗揚げメンバーの坂崎ユカ・山下実優、そして最近の練習についてのお話。

プロレスは物理だと語る中島翔子。ダイナミックな闘いを見せる(©東京女子プロレス)

【フォト】『全長1.47mの大怪獣』中島翔子のパワフルファイト

自分の合っている動き…“武器”を見つけるまで練習する

中島翔子が思う一番練習がきつかった期間、それは旗揚げメンバーの坂崎ユカがAEWに参戦するようになったタイミングだった。

「練習を始めた当初は、できないことが少しずつできるようになっていって、体が柔らかかったのでケガもしなかったんですよね。ただ、ユカッチ(坂崎の愛称)がAEWに行って、等身大でいいやと思っていたことが背伸びしないとダメだと思うようになったんですよね。責任感というよりも、多分ユカッチがステップアップしたことへのライバル心がありました。(コロナ禍の前の)2019年にプリンセス・オブ・プリンセス王座を獲っているんですが、その時の試合がうまくいかなくて悔しくて…ベルトを持つからにはもっとすごい選手じゃないといけないのに何もできないという気持ちだったので、めちゃくちゃ練習しましたね。

スタントジムにも通い始めて、そのジムが偶然道場の近い場所に移転してきたので毎日プロレスとスタントの練習をしていました。変なモードに入っているので、体がしんどくてもケガをするまでは練習しようみたいな。28,9にして初のバク転に成功したり(笑)。今もとにかくやれることを増やして、カッコいいと思う動きができるようになりたい、という気持ちで練習をしています。練習で落ち着いてやればできることを、試合の瞬間的な流れの中でできるようになるためには、どういう練習をすればいいのかを考えながらですね。高さが出る動きはすごくリスキーですし、それに回転をかけるとさらにリスキーで、試合でドンピシャで決めるにはすごく練習が必要だと思います。自分の合っている動きというか、自分の“武器”を見つけるまで練習するという感じですね」

その中島の練習に対する姿勢を見続けている選手がいる。中島、坂崎と並ぶ旗揚げメンバーの山下実優だ。つい先日同団体のリーダーに就任した山下は、中島についてこう語る。

「兄弟ですね。姉妹ではなく兄弟。昔は結構、喧嘩もしましたし。でも、嫌いで言い合っているわけではなくて、意見のぶつけ合いというか。引きずらないですし、結局ご飯を食べに行って話しているうちに仲良くなってみたいな感じです。今はお互い大人になって喧嘩することはなくなったんですけど、最近は(一般参加型の)プロレスキャンプを一緒にやるようになって、話す機会も増えましたけどやっぱり兄弟の感覚だなと。

信頼感もめちゃくちゃありますよ、わかってくれているだろうなというのはあって、戦うのも組むのも安心できますね。練習については、ずっとモチベーションが高くて、保ち続けているのは凄いですよ。お互い13年ですか、私は練習のモチベーションがちょっと下がっちゃうときもあるんですよ。でも私も中島の姿を見て、もっと頑張らないとダメだなという気持ちにさせてくれる存在ですし、尊敬しています」

一方の中島はというと…。

「山下はもう練習云々という次元じゃないところまで行ってしまったと思っています。最近は(山下に対して)負けてられないというよりもなん、山下の試合を見ているとすごく楽しいですし、(山下が)負けたときに『何負けているんだよ!こうしたら勝てただろう、そんなんじゃないだろ!』という楽しみ方ができるようになりましたね。山下に関しては完全無欠じゃないと許さないと思っているので、負けるのは寂しいですよ」

落ち込んでいるタイミングのプロレス教室…参加者から元気をもらった

プロレスキャンプ、そして同期の山下実優との関係性を語った中島翔子(写真/橋場了吾)

その山下とはプロレスキャンプの講師も務めているわけだが、参加者から刺激を受けることも多いという。

「すごく楽しいですね。私は、できない動きをできるようにするために、今の腰の位置を少し高くするとうまくいくみたいなのを見つけるのが得意なんです。基本的に、プロレスは“物理”なので、体の位置や首の角度を調整すると、1周目でできなかったことが2周目ではできるようになるんです。プロレスキャンプに来られる方は、皆カッコいいですよ。役者さんでアクションの延長で来られている方は側転のフォルムがすごくきれいだったり、運動未経験と言いながらヨガをやっていて柔軟性が美しいお姉様もいたりしますし。シンプルに落ち込んでいるタイミングでプロレスキャンプがあったんですけど、逆に元気をもらいましたね。すごく楽しいって言っていただいたり、新しい動きができるようになったと喜んでいたり…運動をみんなですることで元気になれた、いい経験になりました」

最後に中島に将来的な展望を聞いてみた。

「何でもできることも大事なんですけど、何でも教えられるようになりたいなと思います。例えばとある選手がやってみたいという動きがあったとして、私だったら教えられるな、という感じです。だからこそできることをいっぱい増やしたいですし、60歳でもバク転ができる人になりたいですね。プロレスを続けているかどうかは別として、そういう人になれるよう年を重ねていきたいと思っています」

リングデビューから13年、まだまだできることを増やしたいという、プロレスの技術に貪欲な中島。『全長1.47mの大怪獣』の進化は、まだまだ止まりそうにない。

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