プロレスラーとして、格闘家として、両ジャンルで頂点を極めた女子選手は、いつしか『モノが違う女』と呼ばれるようになった。細身の体ながら、投げてよし、蹴ってよし、極めてよし。スターダムの朱里は、現在の女子プロレス界における“強さの象徴”といえるだろう。新日本プロレスの10.13両国国技館大会で、IWGP女子王座に2回目の戴冠を果たした朱里の体つくりの秘訣に迫るインタビュー全3回の第2回は、プロレスラーデビュー後に格闘技との練習を両立していたときのお話。
プロレスはプロレス、格闘技は格闘技、どちらもリスペクトしている

キックボクシングを始めた朱里は、自分をバカにしていた人たちを見返してやりたいという気持ちで練習に打ち込んだ。
「プロレスの練習も、格闘技・キックボクシングの練習も、たくさんしましたね。コーチの小路(晃)さんが100kg以上あったんですが、肩車して階段を上る練習をしたり、小路さんは軽く蹴っているんですがローキックで立てなくなったりしたこともありました。ライオンプッシュアップ500回も、泣きながらやっていましたね。もちろん、小路さんにはたくさん感謝しています。練習もして、アルバイトもして、お金がないので道場に寝泊まりしたこともあります。でも当時は、おしゃれもできなかったですし…。でもなかなかできないこういう経験を乗り越えたからこそ今があると思っていますし、精神面でも強くなったと思いますね。でもあの時代に戻れと言われたら、絶対に嫌です(笑)」
そんな環境でも、朱里は音を上げなかった。
「やっぱりファンの方々の応援ですよ。リングで輝ける場所ができたことはすごく嬉しかったですし、(辞めなかった理由として)大きかったですね」
ハッスルを退団しSMASHに移籍、その後WNCに参画した朱里は、プロレスと並行してキックボクシングのKrushや、MMAファイターとしてパンクラスにも出陣。その後は、現在所属しているスターダムを含め多くのプロレス団体に参戦し、2017年には総合格闘技団体UFCと契約、日本人女子ファイターとして初の勝利を挙げる「モノが違う女」に成長した。しかし、朱里はプロレスと格闘技は完全に“別物”として考えている。
「プロレスと格闘技だと、私は全く違うものとしてやってきました。そこで(ジャンルの)強さを競わせるというのは、私は嫌なんです。プロレスはプロレス、格闘技は格闘技として、どっちも真剣にやっていましたし、どっちもリスペクトしています。プロレスをやっているからって格闘技では簡単には勝てないですし、格闘技をやっているからってプロレスに出ていい試合ができるかって言ったらできないんですよ」
プロレスにしても、格闘技にしても、理にかなっていない動きっておかしい

そんな朱里が、プロレスの練習で苦しんだことは何だったのか。
「やっぱりロープワークを初めてやったときは『痛い』と思いましたね。あざにもなりましたし。あとは受け身ですね。プロレス的な後ろ受け身は、最初は怖さがありました。でもその2つをクリアしてしまえば。今は(リーダーを務めるユニットGod’s Eyeの)練習で教えるときには、一つ一つの動きをこう動いた方がもっとカッコよく見えるよというような細かい部分を伝えることが多いです。でも口だけ言うのはいくらでもできるので、やっぱり自分が練習して見せていくようにしています。プロレスにしても、格闘技にしても、理にかなっていない動きっておかしいと思うんですよね。理にかなった動きを見せることによって、技の説得力が増すと思うんです。そういう動きがわかっていれば、プロレスラーとしての幅も広がりますし、深みが増すと思っているので、色々な格闘技の動き方を練習に取り入れています。例えばですけど、腕ひしぎ逆十字であったりスリーパーであったり、そういう技を使うためには、入り方からきちんと練習しないとうまく技をかけられません。やっぱり、基礎の部分はとても大事で、基礎があるから色々な応用が利くので、基礎をどれだけやり込むかは本当に大切だと思いますね」
