重い荷物を背負い山道を25km……新人女子レスラーの原点は自衛隊、過酷ながら“青春”だった訓練




中学生・高校生は「完全な帰宅部」だった。その少女が、高校を卒業するタイミングで進路を決めるときに、なりたかった職業はプロレスラー。しかし親の反対もあり、自衛官の道へ。1年半、しっかりと心身を鍛え上げた後にスターダムのオーディションに応募し見事合格。そして今、期待の新人と呼び声が高いのが儛島(まいしま)エマだ。今年5月にデビューした儛島の体つくりの秘訣に迫るインタビュー全3回の第2回は自衛官時代の訓練、そしてプロレスラーへの思いが再燃するまでのお話。

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訓練の一環で重い荷物をリュックに入れて山道を25km歩いたことも

自衛官時代の訓練を振り返った儛島エマ(写真/橋場了吾)

自衛官になる、となるととんでもない体力が必要に思うが、入隊自体は筆記試験と面接、そして身体検査で、過酷な体力テストが課されることはなかったという。

「受験の段階では、腕立て伏せやランニングのテストはないんです。なので、筆記と面談でパスして、高校卒業後に陸上自衛隊に入隊しました。最初は半年間、自衛隊の基礎を叩き込まれる教育隊に入るんですが、最初の3か月が滋賀、次の3か月が愛知に行って、その後、希望した関西の駐屯地に配属になりました。同期ですか?男女比は、全体で8:2から9:1で男子ばかりで……でも、皆さんが思っているほどモテはしないかもです(笑)」

完全帰宅部だった儛島エマにとって、自衛官の訓練はどのようなものだったのか。

「初日に、もう無理かなと思いました(笑)。初めて親元からは離れて、しかも9人部屋の集団生活で。私は3姉妹の真ん中なんですが、さすがに……。あと『3歩以上駆け足』と言って、歩いてはいけないんですよ。3歩以上歩くときは駆け足が基本です。どこに行くにしても集団行動が基本なんですが、皆で朝早く起きて、すぐ着替えて駆け足で移動です。最初の方は行動規範や礼儀といった基礎を叩き込まれて、それに付随して体力がどんどんついてくるって感じでしたね。朝6時起きで、17時まで課業でした。ちなみに食事は給食みたいな形式で、美味しかったですよ。毎日楽しみなくらい、美味しかったです。ただ10分以内で食べて、訓練の準備をするという生活でした」

腕立て伏せ・腹筋は当たり前すぎて、訓練とは思っていなかったという儛島。実弾こそ入っていないが、敵陣地に向かって移動しながら銃撃戦に備えるといった訓練も行なった。

「腕立て伏せや腹筋も、連帯責任で上官がOKを出すまでやっていましたね。あと訓練はスケジュール表に書かれているんですが、『総合訓練』と書いてあっても細かい情報がなくて、事前にどんな訓練なのかわからないんです。重い荷物をリュックに入れて背負って、山道を25km歩く訓練もありましたね。そして、体力検定に受からないと成績が悪くなってしまうので、配属の希望の優先順位が落ちてしまうとか…聞くところによると、体は小さめ(156㎝)でしたけど、成績は真ん中より上だったみたいです」

昇任試験を受けてしまうと後戻りができない……プロレスラーになりたい気持ちが再燃

同期の古沢稀杏を逆片エビ固めで破った儛島エマ(©スターダム)

自衛官生活を送る中で、儛島は入隊当初とは違う気持ちを抱えていた。

「正直なところ、最初の半年が青春だったんですよ。初日に辞めたいと思ったんですけど、やっぱり同じ釜の飯を食ったというか、同じ辛い経験をしたからこそ、めちゃくちゃ楽しい時間で。私は部活をやっていなかったので、集団で同じことをするのも初めてで、皆のことをすごく好きになってしまって。昇任試験のタイミングで、自衛官をこのまま続けるか、それともプロレスラーになるかを迷いました。プロレスのことはずっと好きだったんですが、やりたい気持ちはちょっとずつ薄れていたのは事実で、自衛官を続けていれば安定で幸せになれると思ったんです。でも、その試験を受けてしまうと後戻りができないというか、私を昇任させてくれようと動いてくれる方々がたくさんいるわけで。それで人生一度きり、最初になりたいと思った職業を思い出して……」

2023年8月、儛島はスターダムのシンデレラオーディションを受けた。このオーディションでは自己アピールが必要になるのだが、儛島はどうしたのか。

「私、本当にそういうのが思いつかなくて…。他の候補者はダンスをしたり、自分で書いた絵を持参したりしていたんですが、私は『自衛隊に入って鍛えてきました、どうしてもプロレスラーになりたいんです』という気持ちを伝えるだけでした」

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