昨年5月の旗揚げと同時にマリーゴールドに参加した女子プロレスラー・松井珠紗(まつい・みさ、25歳)。けっして体は大きくないがスピード感溢れるファイトスタイルと多彩なテクニックが評価され、旗揚げ戦からファンの大きな支持を集めた。

【フォト】“かわいい系悪役レスラー”松井珠紗のアザーショット
同年7月の両国国技館大会では初代スーパーフライ級王座決定戦に出場。惜しくもベルトには手が届かなかったのだが、残念ながら、旗揚げ戦から続いてきた勢いまでも、この日をピークにストップしてしまった。
体格的に恵まれている選手、そしてどんどん伸びてくる若い選手たちに追い抜かれていくような恰好で、8月から9月にかけて開催されたリーグ戦『DREAMSTAR GP』ではわずか1勝で最下位タイに沈んでしまった。
最終戦の試合後、リング上では表彰式が行われた。なにももらえなかった松井は表彰式に参加することなくバックステージへ。その背中には観客からのあたたかい拍手が贈られたが『出場選手全員で記念写真を撮るから戻ってきて』と呼ばれ、いま一度、拍手を贈ってくれたファンの前に。なんともバツの悪いシーンだったが、本人も「あれはもう屈辱でしかなかった」と振り返る。
その悔しさをバネに立ちあがった、と書きたいところだが、当時の彼女は「もうどうしたらいいのかわからない……」と頭を抱えこんでしまっている状況。ベストを尽くしても結果が出ない日々は彼女をどんどん追い詰めていった。
まったくチャンスがなかったわけではない。両国国技館での敗退後もタイトル挑戦の機会は何度もやってきていた。その数、なんと6回。一度もチャンスを活かすことができず、タイトル挑戦は6連続失敗となってしまったが、それだけの回数、チャレンジャーとして抜擢されるのは、すなわち実力が認められているからである。
なにかひとつきっかけがあれば、ポーンと弾けそうな感触はあったが、そのきっかけが見つからない。そんな状況を打破するために松井珠紗がチョイスしたのは、まさかのヒール転身だった。

ヒールとはいってもドラマ『極悪女王』で話題になった、昭和の女子プロレスの悪役とはテイストが違う。基本となるベースは“かわいい”であり、試合でもテクニックをたっぷりと披露する。悪いことといえば、持ちこんできた椅子で相手を殴打するぐらいで、あとは悪いというよりも“ズルい”攻撃がメイン。そんなスタイルがファンに刺さった。たしかにほかに誰もやっていないスタイルであり、独自のポジションを手に入れるにはヒール転向は最高の“きっかけ”となった。
「まあね、いまは令和だからさ。昭和みたいなヒールのやり方じゃなくてもいいでしょ? 時代に合わせてスタイルも変えていかないとね」
今年の5月、マリーゴールドに移籍してきた“プロレス界のアイコン”岩谷麻優は松井との初対決を終えたあと「こんなにいい選手がいたなんて知らなかったよ!もっともっと世間に知られなくちゃいけない存在だよ!」と大絶賛。昨年、屈辱を味わったリーグ戦でも4勝3敗と勝ち越し。優勝候補からの金星も挙げて大いに盛りあげ、見事、技能賞にも輝いた。ヒールでの技能賞獲得はある意味、快挙である。
着々と実績を積み重ねてきた松井珠紗だったが、その一方である悩みを抱えていた。
「とにかく眠れないんですよ。眠くてベッドに入ったはずなのに何時間も寝られなくて……それが毎日のように続くんです」(10月31日、朝5時30分公開の後編に続く)
