「私、ちょっと疲れやすいかも……」そう思った少女の体は、数日で10㎏近く体重が増えてしまった。診断結果は『ネフローゼ症候群』。血液中のたんぱく質が異常に尿に漏れ出してしまうことで、むくみが起こるという病気だった。そしてその闘病中に、副作用が出るリスクを理解しながらもステロイドを服用し、両側距骨壊死を発症し下肢障碍に。しかし、彼女にはスノーボードがあった。橋口みどりは今、パラアスリートとしてパラリンピック出場を目指している。インタビュー全3回の第1回は病気を発症したとき、そして投薬後のお話を。
中学3年生の時に、3日間で急に体重が10kg近く増えた

橋口みどりが体の異常を感じたのは、中学3年生の時だった。
「最初は『なんか疲れやすいな』というのはあったんですが、一般的な疲労なのかなと思ってあまり気にしていなかったんです。たまたま両親が旅行で3日ほど家を空けることがあったんですが、兄もいるし大丈夫だと思っていて。
でも、その3日間で急に体重が10kg近く増えたんです。目がパンパンに張って、お腹も出てきて…。両親が帰ってきたときに『まさか妊娠したのか?』と心配するレベルで。もちろんそんなわけもなく、ただ思春期でたくさん食べていたから太っちゃったのかなと思っていたんですが、食事の量を減らしてもどんどん体重が増えてトータルで15kg増ですよ。
それで息も苦しくなってきて、病院に行ったところ『ネフローゼ』と診断されました。まさか自分がそんな病気になるなんて思ってもいなかったので、様子を見ていた時間があって。
そうすると、血液にとどまりきれなかった水分がお腹に溜まり腹水になり、どんどん胸の方にも溜まって息がしづらくなっていたんですね。10日くらい様子を見て、夜中に息ができなくなったので父に病院に連れて行ってもらったら『肉ではなくて水で太ってきていますよ』と……」
生きていくためには「ステロイドを使わない」という選択肢はなかった

ネフローゼ症候群は、血中のたんぱく質が尿に漏れ出してしまい、そのたんぱく質のおかげで血液中にとどまっていた水分が、あふれてむくみにつながる病気だ。腎機能が間違った信号を受け取ることが原因といわれているが、血中の水分がなくなるということは血栓ができやすくなるということでもある。
「病院では『今すぐにでも大きい病院に行って治療を受けてください』と。それで近くの大学病院に行ったら即入院で、闘病生活が始まりました。ネフローゼについては、最近ですが一説では上咽頭炎や副鼻腔炎と関係していると言われていて、それまでは原因不明の病気だったんです。
喉の炎症が腎臓に影響を与えて、タンパク質が尿に漏れ出す状態になってしまって。治療としては、点滴で利尿薬を入れてとりあえず水分を出して、ステロイドを使用し、免疫反応を抑えてタンパク尿を減らす治療を開始しました。
ステロイドは非常に強い薬なので、糖尿病や骨頭壊死など、重大な副作用にかかる可能性もあって。でもその薬がないと生きていけないので、薬を使わないという選択肢はなくて、副作用を覚悟で使うしかなかったんですよね。もちろん両親にも説明があって、薬を使わないと命が危ないので使いましょう、それでステロイドの使用に踏み切りました」
生きていくためとはいえ、リスクを冒して使用したステロイドが悪さをし始めたのは、投薬から10年ほど経った27歳のときだった。
「両側距骨壊死……両足首の可動域が狭くなる症状が出ました。両足首に出たことから、外傷ではなくてステロイドの作用だと。左の方が症状は進行していて、歩くことすらまともにできなくなったので手術をして、右はまだ痛みがそれほど強くないので手術はしていません。
私が罹ったネフローゼはステロイド治療が有効なほうな型なんですが、プラスして私がステロイド依存型の体質を持っていて、ステロイドがないと病気が再発してしまうんです。ただ、ステロイドは長期的に使うことはできない薬なので、減らしてはいくんですけど、減らす度に再発するので…。基本は経口薬で症状がおさまるはずなんですけど、私の場合だと点滴の量で入れないとおさまらないんですよ。
服用している期間も長かったですし、ほかの人よりかなり多い量を投与していたので、副作用も出やすいかなという思いはありました。でも副作用が出るか出ないかは人それぞれで、私は悪い方に当たってしまった感じですね。ネフローゼの症状がおさまってきて、ステロイドを減らしても大丈夫だねというタイミングで両足首の症状が出てしまったので……」(12月9日朝5時30分公開の#2に続く)
