「あのフワちゃんがプロレスデビューするそうですね。記事を書いてもらえませんか?」
そんなオファーがVITUP!編集部から舞いこんできたのは11月のことだった。たしかに女子プロレスの取材を幅広くしていて、記事も頻繁に書いているから、こういう依頼が来るのは当然のことであるのだが、もう即答で「いまの段階では書くことはできない」とお断りした。

フワちゃんはプロレスラーとしてどうなのか? という展望記事は書けなくもないけれど、正直、書きたくなかった。正直な話、プロレスラーとしての適性能力は極めて高いと思う。数年前、テレビ番組の企画でプロレスに挑戦したときの試合を観たが、このまま本格的にプロレスをやればいいのに、と素直に思ったぐらいである。
しかし、今回ばかりは状況が違う。
SNSでの炎上騒動でフワちゃんは表舞台から姿を消した。世間からの叩かれっぷりは尋常ではなく、このままフェードアウトしていくのではないか、とまで囁かれていた。そんな彼女がプロレスラーとして再起する、と宣言したときにも、やはり冷ややかな意見がたくさん飛び交った。
プロレスというのは、いろんな意味で「やさしい世界」だ。他のスポーツをリタイアせざるを得なかった者も、スキャンダルで失脚してしまった者でも、プロレスのリングが優しく受け入れ、これまで数えきれない人数を救ってきた。それでもなお、フワちゃんに対する逆風はすさまじいものがあった。どうせイメージ回復のためにプロレスを利用するつもりなんだろう、と。
本人はいたって真剣で「覚悟を決めている」という。じつは表舞台から姿を消しているあいだ、単身海外に渡ってプロレス修行をしていたとも明かしているのだが……なんともモヤモヤは晴れない。実際に海外でのトレーニングに帯同取材でもしていれば話は別なのだが、どれだけフィジカルを鍛えてきたのかは不明。そして、そのモヤモヤの正体はデビュー戦の相手であり、テレビ番組でフワちゃんの指導にあたった葉月が決戦を前に発した言葉でハッキリとわかった。
「プロレスラーにとっての“覚悟”は言葉で伝えるものじゃない。リング上での闘いから、観ている人たちに伝わらなかったら、それは覚悟ではない」
前回はあくまでも芸能人としてプロレスに挑戦しただけだったが、今回は正真正銘、プロレスラーを本業にするための「再デビュー戦」である。勝ち負けも関係ない、技の綺麗さも関係ない。どれだけ感情を曝け出して、観客に「覚悟」を伝えることができるのか? もうそれがこの試合における評価のすべてになってくる。
だから、試合前の展望記事は断ったが、実際に試合を生で観て、両国国技館に集まったお客さんの生の声を感じた上でなら、記事を書きましょう、と。
そして12月29日、フワちゃんは両国国技館のリングへと向かったーー(本日21時公開の後編へ続く)。
