二世女子プロレスラー同士によるシングルマッチというだけでレアな闘いなのに、それぞれの母親がセコンドについている、となると、おそらく日本マット界でははじめてのことではないか? それが両国国技館でのビックマッチのオープニングという華やかな舞台で実現した。

まず観客の目を奪ったのは大向美智子の娘・心希だった。
心希は現役の高校生。まだ山口県の実家に住んでいるので、フルタイムでプロレス活動をしているわけではなく。夏休みや年末年始などの長期休暇には上京してマリーゴールドの活動に帯同。また西日本地区で試合があるときには合流するという変則的な形での参戦となっている。それゆえ同期と比べるとデビューまでには時間がかかったが、デビュー戦から抜群のプロレスセンスを発揮し、ファンを驚嘆させた。
田中きずなにも言えることだが、やはり二世レスラーには飛びぬけたプロレスの才能を感じてしまう。これはもちろん親から受け継いだDNAもあるのだろうが、やはり物心ついたころから、ずっとプロレスを見続けてきたというアドバンテージは大きい。
どんなバックボーンを背負ってプロレスラーになっても、やはりプロレス特有の動きや技は誰でも苦戦する。ストンピングやエルボーアタックといった基礎中の基礎でも、観たこともやったこともない人からしたら、意外と難しい。
その点、田中きずなも心希もデビュー戦からしっかりできていた。テレビで、試合会場で数えきれないほどプロレスを観てきた効能はものすごくデカい。
そこにプラスして、やはり母親の幻影が重なってくるから、観ている側からしたらエモい。お母さんの必殺技を娘が完コピして継承する……これこそが大河ドラマの肝! 心希の華麗な裏投げには客席がドッと沸いた。幻影もなにも、リング下には実際にセコンドとして母親もいるのだから、沸かないはずがないのである。
心希は「ママの技を全部、受け継ぎたい。全部、使いたい!」と言っているそうだが、それを聞いた母・大向美智子は嬉しさと同時に元プロレスラーとして、シビアな意見を娘に伝えた、という。

「そりゃ、嬉しいし、技はいくらでも教えますよ。ただ、最初から全部、出しちゃったら、それはプロとしてもったいないでしょ? それに精度の低いままリングで披露するのはもっともったいないから、ひとつひとつ完璧にしてから出していってほしい」
プロレス人生の本番はこれから。長いスパンで考えたら、たしかに最初からあれもこれも、と欲張るのはあまりよろしくない。こういったアドバイスができるのも母娘レスラーならではなのだが、その言葉に重みがあるのは大向美智子がけっしてエリートレスラーだったわけではなかった、という部分もある。最終的にはメインイベンターとして活躍できたけれども、そこに至るまでの道のりは平坦ではなかった。
どん底からメインイベンターまで這い上がっていく過程を知っているからこそ、デビュー戦で高い評価を受けた娘に対しても「いい試合ができて母親としてはホッとしているけど、いきなり期待値が上がっちゃったから、いずれ苦しむときがくる」と冷静な目で見つめていた。
だが、母は知っている。いつか壁にブチ当たったときに、いかにしてそれを乗り越えればいいのか、というヒントを。スランプすらもドラマになる可能性を秘めているのだから、これからの心希は追いかけていけば、間違いなく面白い光景を見られるはずだ。
