なぜ筋肉は使わないと退化する?【筋肉博士の最終講義】




書籍『石井直方 最終講義 筋肉まるわかり大事典』よりⓒベースボール・マガジン社/ニューロック木綿子

筋トレは「人類の存在」を守る知恵【筋肉博士・石井教授ラストインタビュー】

これはある意味、哲学的な要素も含まれる問題と言えるでしょう。

まず生命の一般現象として、余分なものは切り捨てる、という本質的な仕組みがあります。よく使うものは生きていくためにも強化する必要がありますが、使わないものは強化する必要がない。むしろ、なくなってしまったほうが体にとってプラスにつながることもあるわけです。

筋肉の場合、あまりにも力を発揮する時間が少なくなると、それを体はどんどん衰えさせようと働きます。冬眠して長期間活動しない動物もいるので、個々の生き物の事情によって多少は変わってきますが、根本的な仕組みとしては削ってしまおうという反応が起こる。とくに筋肉は体の中の絶対量が多いので、エネルギー的に非常に大きなコストがかかります。その観点からも、不要な筋肉は減らしてしまったほうがいいわけですね。

宇宙飛行士の筋肉が、地球に戻ってきた時に著しく衰えてしまっているのもそのためです。生きていく上で常日頃から使われている抗重力筋などは、日々の刺激によって現状維持されているので、その刺激がなくなってしまうと速筋などよりも早く衰えるのです。

筋肉の中では、日常的にタンパク質の合成と分解が起こっています。通常の状況では合成と分解が平衡状態になっていて、分解されて減ったぶんだけが合成され、全体の筋肉量は変わらずにキープされています。見た目は変わらないけれども、実際の中身は入れ替わっている状態。これを動的平衡状態と言います。

トレーニングをすると、タンパク質の合成量が分解量を上回るような状態になり、筋肉はだんだんと太くなっていきます。逆に合成が下がって分解が上がると、筋肉は細くなっていきます。

では、筋肉が萎縮する時は、合成が変わらずに分解が上がるのか、それとも分解が変わらずに合成が下がるのか。じつはよくわかっていません。ただ、筋肉を動かさずにいると分解の活性が上がることはわかっています。

最近の研究では、タンパク質の分解と合成には、一方がオンになると、もう一方がオフになるというフリップフロップ型の仕組みが働いていることがわかってきています。両方が同時に上がらないように制御されているわけです。ですから、筋肉を使わずにいて分解のスイッチがオンになってしまうと、合成はおのずとオフになる。そのために萎縮のスピードが上がっていくのだと考えられます。

ちなみに、この合成と分解は中枢神経の指令ではなく、筋肉そのものに内在しているシステムで調整されていると考えられています。それに加えて、神経からの刺激、副腎皮質ホルモンによる刺激などが複合的に働くことで、合成と分解は調整されているようです。

※当記事は、書籍『石井直方 最終講義 筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社/2025年12月発売)からピックアップした内容をWeb用に再構成したものです。