「私がなにを言っても全然聞いてくれない」 母の心配と娘の強情 プロレス界で見えた母子のリアル




心希が母親の必殺技を令和のリングで蘇らせて両国国技館を大いに沸かせた一方で、田中きずなはあえて母から受け継いだ「伝家の宝刀」をなかなか抜こうとはしなかった。

キャリア的に上回る田中きずながルーキーの心希をドン!と受け止めるような展開になったことも影響しているのかもしれないが、その裏には田中きずなの確固たるポリシーが存在していた。

「かわいすぎる女子プロレスラー」として人気を博した府川唯未(左)と娘の田中きずな(右)(写真提供/マリーゴールド)

【写真】エモさMAXの闘いを見せる二世レスラーたち

それは「二世レスラーである前に私はあくまでも、私』というプロレスラーとしての考え方。もちろんプロレスラーである両親のことはリスペクトしているし、だからこそ両親の名前を汚さないような試合をしていきたい、という気持ちもデビュー前から強く持っている。その上で二世レスラーとしてより、まずは一レスラー・田中きずなとして評価してもらいたい、という想いがどんどん大きくなってきている。このあたりはもう二世レスラーにしかわからない苦悩、である。

お客さんが母親から受け継いだ技を見たがっている空気は感じとっていた。試合中にふたつ、みっつと技を重ねれば盛りあがることもわかっていた。プロなのだから、そうすることが最善だともわかっているけれども、華麗な脇固めを見せてくれたぐらいであとは「田中きずな」のレスリングにこだわった。「ママの技は全部、使いたい」という心希とはまったく逆の生き方を彼女はチョイスしていた。

「私がなにを言っても、全然聞いてくれないから……」

母・府川唯未は娘の頑固さに苦笑いした。

彼女もまたエリートではなかった。むしろ「落ちこぼれ」の部類だった。それだけに自分の名前や技をもっと使って、もっと要領よく生きてほしいと思っているのかもしれないが、一度、リングに上がってしまったら、すべては本人の意志。こちらの母娘関係もなかなか面白い。

同じく二世レスラーである心希から勝利を収めた田中(写真提供/マリーゴールド)

試合は田中きずなの勝利で終わったが、これはほんの序章にすぎない。これから数えきれないほど闘っていくことになるし、ふたりの母親は声を揃えて「今度はタッグを組んでの試合が見てみたい!」。近い将来、今度は両国国技館のメインイベントでふたりがシングル王座を賭けて闘ったり、タッグチャンピオンになったりする日が来るかもしれない。そのときこそ、これまで日本の女子プロレス界で類を見ない母娘が描く大河ドラマのクライマックスとなるはずだ。

早くもふたりの対決の「つづき」が決まった。

2026年1月3日、大田区体育館で開催されるマリーゴールドのビッグマッチにおいて、田中きずなと心希が今度は6人タッグマッチで激突する。12月27日に後楽園ホールで行なわれたタッグトーナメントを制し、ルーキーながらノリまくっている心希の勢いか?

負傷欠場明けではあるが、2026年の飛躍を誓う田中きずなが新春にスタートダッシュを魅せるのか? お正月から目が離せない。