2023年、『Scientific Reports』という英国の学術雑誌に「筋トレをすると皮膚が若返る」という論文が出て話題になりました。これは立命館大学の藤田聡教授の研究室で行なわれた実験結果が発表されたものです。

実験では中年の女性を対象として、筋トレを行なうグループと有酸素運動を行なうグループに分け、それぞれ4か月間続けてもらいました。その後、皮膚をチェックしてみたところ、表皮と真皮の厚みが増し、弾性も増していることがわかりました。さらにコラーゲンの合成が増加し、炎症反応を起こすサイトカインの血中濃度が減っていました。
筋トレをするとシワが減る、肌がツヤツヤになるといった“状況証拠”的なものは昔からありました。筋トレは有酸素運動よりも交感神経をすばやく活性化し、成長ホルモンの分泌が即効的に高まります。それがそのような現象を生み出していると思われてきました。
また、アメリカなどでは女性ホルモンや成長ホルモンを注射する「ホルモン補充療法」がよく行なわれますが、それによって皮膚の厚みが増しシワが減るなどの効果があるという報告もあったことから、筋トレによる成長ホルモンの分泌が肌を若返らせると推測されていました。
研究の分野ではなかなか具体的な報告がなかったのですが、2018年、筋肉を動かすと「マイオネクチン」というマイオカインが分泌されるということが発表されました。当初、この物質は心臓病を防ぐ効果があると報告されたのですが、のちに化粧品会社の研究開発の中でマイオネクチンがメラニンの沈着を防ぎ、皮膚のシミを予防しそうだと報告されました。
そしてその5年後、冒頭の立命館大の研究が発表されたわけです。ヒトを被験者とした実験で、4か月という期間で結果が明確に出たということは大きなことだと思います。
生理学的に考えてみると、激しい運動をすると人間の体が危険な状態になる可能性があります。それに対して体を守ろうとする反応が起こるのは何ら不思議なことではありません。皮膚は外界からの異物侵入、ケガによる感染などを防ぐための第一の免疫バリアともいえるので、それを強化しようという反応が起こることは理にかなっていると考えられます。
※当記事は、書籍『石井直方 最終講義 筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社/2025年12月発売)からピックアップした内容をWeb用に再構成したものです。
解説:石井直方
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。東京大学名誉教授(運動生理学、トレーニング科学)。力学的環境に関する骨格筋の適応のメカニズム、及びその応用としてのレジスタンストレーニングの方法論、健康や老化防止などについて研究。日本髄一の“ 筋肉博士” としてテレビ番組や雑誌でも活躍した。『筋肉の科学』『トレーニングのヒント』(小社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)、『スロトレ』(高橋書店)など著書・共著は多数。ボディビルダーとしてもミスター日本優勝(81・83年)、IFBB ミスターアジア優勝(82年)、NABBA 世界選手権3位(81年)などの成績を収めた。2024年8月20日、69歳で逝去。正四位瑞宝中綬章を受章
