そこにあるのが当たり前ものが、ある日、突然なくなってしまうと知ったら、人間はとてつもない喪失感に襲われるものだ。3月10日、その喪失感を日本中のプロレスファンや格闘技ファンが同時に味わうことになってしまった。
新宿FACE、閉館。
歌舞伎町のど真ん中にあり、おそらく日本一アクセスのいいプロレス会場だった。JR新宿駅から近いのはもちろん、西武新宿駅や地下鉄の入り口はもっと近い。試合前に腹ごしらえをするには、あまりにも選択肢が多すぎて悩んでしまうレベルだし、試合後、ガッツリ食事をするにも、一杯ひっかけるにも、まったく困らない。
後楽園ホールや両国国技館で試合を観たあと、とりあえず新宿に移動して店を探そう、ということも少なくないのに、新宿FACEなら移動0分で店に飛びこめる。駅近だから、そこまで終電の時間を気にすることはないし、最悪、朝まで過ごせてしまう街。そういった「付加価値」を考えると、プロレス会場として最強のロケーションだった。ちょっと行くのが面倒くさいな、と1秒も感じさせないのは、まさに神アクセスすぎた。
オープンは2005年だが、前身のライブハウス・リキッドルーム時代からJWP女子プロレスが興行をおこなってきたので、プロレス・格闘技との結びつきはもっと深く、長い。とにもかくにも新宿コマ劇場が歌舞伎町のランドマークだったころから、ゴジラヘッドに主役の座が変わる今に至るまで、新宿FACEはずっとそこにあるのが当たり前で、週末になると昼でも夜でもいつもリングで闘いが繰り広げられてきた。
キャパは500人程度とそんなに大きくないが、だからこそ一番うしろの席でもリングサイドの臨場感が味わえた。ビルの7階にあるので、試合後、エレベーターで1階に降りて、扉が開いた瞬間に歌舞伎町の空気を感じて、スーッと夢の世界から現実に引き戻される感覚も独特だった(近年はいささか周辺の路上の治安に不安を覚えたりもしますが……)。
入居しているビルの建て替えの話から閉館につながった、と聴くが、たしかにあのビルは自分が子供のころから、そこにあった。調べてみたら1971年落成とのことで築55年を迎える。なるほど、バックステージのそこかしこに昭和を感じるはずだ。たしかに今回の閉館は時代の趨勢で避けられないことなのだろう。
閉館は9月とのことでサヨナラまで半年ある。まだ新宿FACEで観戦したことがない、という方はぜひ一度、名会場を体感してほしいし、行ったことがある方も思い出に浸りに来てもらいたい。そして、語り継いでいってもらいたいのだ。またひとつ、平成の灯が消えるーー。
文/小島和宏


