日本のフィットネスクラブの歴史は、1964年の東京オリンピック後、水泳の選手や指導者たちが「スイミングスクール」を開業したことから始まった。1983年に日本初のフィットネスクラブ「ウィルセントラルフィットネスクラブ新橋」が誕生して以降、その進化は続いている。
笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査」によると、2000年代以降、国民の健康意識が高まり、トレーニング人口の増加にともなってフィットネス市場も大きく成長した。
“年1回以上筋トレを行なった人” という幅広い定義ではあるが、現代の筋力トレーニング実施率(20歳以上、年1回以上)の推計実施人口は約1,629万人。2000年の726万人から比べて約2倍と飛躍的に伸びた。
それに伴いスポーツジムも増加。24時間営業の「エニタイムフィットネス」や、低価格・24時間通い放題の“コンビニジム”をうたった「chocoZAP」などの台頭もあり、老若男女問わず幅広い層がジムを利用するようになった。
しかし、近年まで右肩上がりで増加していたトレーニング人口は、2020年をピークに横ばいで推移している。増加している年代もあれば、減少している年代もあるといった状況だ。
こういった調査をふまえると、ビジネスパーソンにとってフィットネス業界は一見すると“成熟しきったレッドオーシャン”に見えるが、そこに飛び込んだひとりの若者はそれに異を唱える。2024年に東京・墨田区にオープンしたフィットネスジム「Espoir Fitness」の経営者である宮原悠介さんだ。

経営者である父の背中を追い、中央大学を卒業後、経営コンサルティング企業・船井総研(船井総合研究所)に入社した宮原さんは、20代半ばにして退職するまで、企業のさまざまな経営上の課題を分析してきた。そんな彼はフィットネス業界のどこに勝機を感じたのだろうか。
「正直、市場全体を考えると“レッドオーシャン”だと思います。ただ、私はある意味では、フィットネス業界は“ブルーオーシャン”とも言えると考えました」
そう前置きをした上で宮原さんは、フィットネス業界に白羽の矢を立てた理由を語った。
「まず、欧米と比べれば日本はまだまだトレーニング人口が少ない。そしてコロナ禍では外出自粛などの影響を受けてジムがどんどん閉鎖しましたが、感染症の収束に伴い、それまでトレーニングをしていなかった人たちも運動不足の解消などを目的にジムに通うようになりました。美容への関心も年齢・性別を問わず高まっていますし、潜在的な顧客はまだ大勢います。たとえば今はパーソナルジムが流行っていますし、 “手軽さ”を売りにした『chocoZAP』も爆発的に増えましたよね。ですので、差別化さえできれば勝機はあると考えました」
キーワードは“差別化”。そこで宮原さんは『セミパーソナルジム』という形態を選択した。
「セミパーソナルジムは、パーソナルジムと同じようにトレーナーがトレーニングを指導しますが、トレーナー1人に対して会員が数名というグループレッスンの形式です。パーソナルジムに比べて手頃な価格(『Espoir Fitness』は月額6000円~)で、きちんとトレーナーから指導を受けられます」
また“継続率”もキーワードのひとつだ。
「『通い放題』ではなく、月ごとの『回数制』にしました。『エニタイムフィットネス』や『chocoZAP』のように通い放題だと『明日でもいいか』となって結局行かなくなってしまうパターンが多いことがわかりました。回数制の場合は『月〇回だけ頑張ろう』と目標が具体的になるので、継続しやすい傾向にあります」
「パーソナルジム」と「セルフジム」。主流である2つの形態の狭間、それが宮原さんの言う“ブルーオーシャン”の正体だ。さらに「セミパーソナルジム」の強みはもう一つある。それが、グループレッスンならではの「コミュニケーション」だ。
「店舗は私の地元につくりました。みんなとおしゃべりしながら楽しくトレーニングができるというのも売りの一つなんです。励まし合える仲間がいることはモチベーションにもつながりますし、みんながおしゃべりしながら楽しくトレーニングをして、長く健康でいられたらすばらしいことですよね」
ジムの受付には、会員が差し入れをしたお土産のお菓子が並び、「どなたでもご自由にお取りください」と書かれていた。それは「Espoir Fitness」が単なるトレーニングの場ではなく、地域の人々のコミュニティーの一つとなっている証と言えるだろう。
インターネットが発達し、人と人とのつながりが薄れる現在において、孤独・孤立は深刻な問題の一つにもなっている。若き経営者が創造した“コミュニティー”というジムの新たな可能性。その今後に注目したい(後編に続く)。


