プロレス解説者の柴田惣一さんが取材した「プロレスのアレコレ」を紹介する「柴田惣一のよもやま話」。今回はレスラーの「耳」前編です。カリフラワーのようになってしまった耳を見たことがありませんか? じつは「プロレス界1のハンサム」安齊勇馬も……。
あなたのまわりに「耳がわいた人」や「耳がつぶれた人」はいるだろうか。プロレスラー、アマチュアレスラー、柔道家、相撲取り、格闘家……コンタクトスポーツ経験者の中には、耳が痛々しくもっこりと膨れ上がってしまった者が多い。
組み合ったり、ぶつかり合っているうちに、相手の頭が耳にぶつかり、体で耳がこすれたりして出血してしまう。またはマットや畳で強くこすれたり、何度も繰り返しているうちに血がたまり、餃子耳になってしまうようだ。
競技を始める前に血を抜いておけば良い、とも言われるが個人差、体質もある。いくら激しい稽古や試合をしても餃子耳になりにくい人もいる。きれいな耳をしているからといって稽古不足というワケでもないが、格闘家にとっては「耳がわく」のは「歴戦の強者の証」や「勲章」といえそうだ。
「格好いい」「強そう」とみるか「汗臭い」と取るかは、その人の感性によるところが大きいが、じつは「プロレスラー№1のハンサム」安齊勇馬の両耳も潰れている。
高校、大学とレスリング部で活動し全日本プロレス入りしたのだから、自然なことだろう。さわやかな安齊には似合わない気がするが「僕もわいています」と屈託なく笑う。それがさも自然なことのように、まったく意に介していないようだ。
恋愛リアリティ番組や写真集で、耳がアップになることはまずはない。気にすることもないのだろう。安齊ファンからしてみれば、耳がわいているのも魅力なのかも知れない。
とはいえ、不便もある。耳穴がふさがりかけているとあって、耳穴掃除が上手くできないという。どうやらコツがあるようだ。鼓膜が破れた経験もある。「しばらくは聞こえづらい。治るんですけど、繰り返しているうちに段々と治るまでに時間がかかるようになる。僕はまだ大丈夫ですが、どちらかの耳がダメ、という先輩は多い」と、さすがに顔を曇らせた。
何事も前向きな安齊だけに、多少の不便さも明るく笑い飛ばすが、プロレス界ではわいた耳を「カリフラワー」に例え、米国にはプロレスラーOBたちの親睦団体「カリフラワー・アレイ・クラブ」が存在する。
多くのレジェンドレスラー始め、世界プロレス界で活躍したそうそうたるプロレスラーOBたちが会員に名前を連ねている。ある意味プロレスラーのステータス。総会では、かつてのスター選手たちが顔を揃え親睦を深めている。日本人選手も参加しており、ファンと交流する機会もあるようだ。
「カリフラワー」耳は、プロレス界にしてみれば、日常であり、見慣れた光景なのだが、初めて目にしたら、いささか驚き腰が引けてしまうかも知れない。
かつて新日本プロレス道場で修行し寮長を務め、引退後も道場や寮の管理をしていた「虎ハンター」小林邦昭がこっそり教えてくれたことがある。
「昔の話だけど、せっかく入門テストに受かり、入寮までしたのに、すぐに逃げてしまったヤツがいたんだよ。どうしてか不思議だったんだけど、後になってわかったんだ。先輩たちの耳が変なことになっている。いじめだか、おかしなことをされるらしい。何をやらされるかわからない。とんでもないところに来ちゃった、と怖くなってやめたということだった。残念だよね。体は大きかったけど、レスリングなどの経験がないからわからなかったんだろうね。俺に聞いてくれれば、ちゃんと説明したのに」とポツリ。有望な若者だっただけに、残念至極と振り返っていた。
いずれにせよ「カリフラワー」はプロレスラーにとっては、歴戦の証。「耳がわいた人」「耳がつぶれた人」を見かけたら「頑張っているね」と心の中で応援してください。(敬称略)


