プロレス解説者の柴田惣一さんが取材した「プロレスのアレコレ」を紹介する「柴田惣一のよもやま話」。「凶器」もプロレスのスパイシーな味付けだが、何と「車」が登場。とんでもないシーンが繰り広げられている。
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いくら鍛え上げたレスラーとはいえ生身の人間。車とは闘えない。ところが、車でひかれる事件は実は何度も起こっている。今年も6月17日、DDTでとんでもない非常事態が起こった。
東京・上野恩賜公園野外ステージ会場大会のエニウェアフォール・スクランブルバンクハウス4WAYタッグマッチ。クリス・ブルックス、HARASHIMA組、上野勇希、To-y組、MAO、KANON組、高木三四郎、秋山準組が野外ステージのアチコチでところ狭しと暴れまくっていた。

いつの間にか、姿を消したMAOが舞台の袖から、何と白いワゴン車に乗って出現。高木に真正面から突進していった。逃げる間もなく車と接触した高木は、後方に5メートルほどふっ飛ばされ、大の字にダウン……周囲は大慌てだったが、高木は何とか立ち上がった。
大ケガには至らなかったが、当たり所が悪ければ命にも関わりかねないMAOの「車アタック」。見守る関係者、ファンから飛び出したのが「またやったか」ということだが、初めて目撃した人にしてみれば、口あんぐりの異常事態である。

MAOが高木をひいたのは「7年ぶり4度目」だという。中でも2019年7月3日の東京・新木場大会の惨事は「DDT LIVE! マジ卍」で生中継されていた。
新木場ファーストRINGの搬入用シャッターを上げたMAOは社用車に乗り込んだ。あれよあれよという間に、高木をはねとばす。プロレス生中継番組での「放送事故」ならぬ「交通事故」だった。
レスラーの受け身は匠の技術。瞬間的にわが身を守り、ダメージを最小限に抑える。前、後ろ、横など、どんな態勢からでも受け身が取れなければ、デビューさせてもらえない。ジャイアント馬場の全日本プロレスはとくに徹底していた。道場で巡業先のリングでとことん受け身の練習が繰り返されていた。
全日本に限らず受け身の上手い選手はケガも少なく、出世も早い。ただどうしてもダメージは残る。引退後のレスラーが普通の日常生活を送れることを願うばかり。
現在は日本プロレスリング連盟の代表理事を務める高木。DDTとノアを傘下に持つサイバーファイトの取締役副社長であり、DDTの「大社長」として活躍している。受け身はお手のものだが、車にひかれるのは避けたいところだろう。
加害者のMAOは中学生の時に撮影した動画「中学生プロレス技やってみた」が、高木の目に留まったというから、根っからのDDTレスラー。持ち前の運動能力を生かし、DDT入門後も頭角を現わした。DDTのベルトを次々と腰に巻いた。25年には新日本プロレスの「ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア32」に参戦し、しっかりと爪痕を残している。今年8月にはついにDDTの最高位であるKO-D無差別級王座も獲得。11・3東京・両国国技館大会でクリス・ブルックスと熱闘の末、V6に成功した。国技館全体を戦場としサプライズの連続。「これからもBAKA(バカ)やりましょう」とアピールするMAOを大歓声が包み込んだ。
格闘技色の濃いファイトスタイルでも実力を発揮するが、DDTの特色である何でもありの自由なスタイルにもこだわるMAO。「ボクがDDTを選んだのも、何でもあり。いい意味ででたらめさも大切にしたい」という熱い想いのひとつが「車アタック」なのだろう。

そういえば被害者の高木も愛車「ドラマチックドリーム号」での自転車アタックを得意としている。競輪との二刀流レスラー「SHINGO」と対戦したこともある。
さまざまなファイトスタイルが楽しめるプロレス。「車」を「凶器」にするMAOからも目が離せない。
