トレーニングで、もっとも避けたいことの一つがケガ。といいつつも、熱心になればなるほど、ハードに追い込めば追い込むほど、ケガのリスクが高まるのも事実。激痛が腰、肩、手首などに走り、いつのまにか慢性化……。そんな経験を持つトレーニング愛好家の数は、決して少なくないかもしれない。
そうしたケガを安易に「トレーニングには付きもの」などと甘受することなく、未然に防ぎ、受傷しても最低限に抑え、最短で完治させるには、どうすればよいのか……? 「そうだ、専門家に訊いて解決しよう!」というのが、本稿の目的である。
今回お話を伺うのは、「PT」と呼ばれるスペシャリストの神鳥亮太さん。PTとは、Physio Therapistの略称。日本語では「理学療法士」と表記される。現在は、豊田自動織機ラグビー部のヘッドアスレティックトレーナーにして大学非常勤講師(中京大学、豊橋創造大学)、さらには複数の病院にも勤務する神鳥さん。理論に通じ、現場経験に富む、多忙な専門家である。
――一般的に、PTという職業に馴染みのある人は、あまり多くないように思います。まず、PTという職業について、ご説明下さい。
PTとは、リハビリテーションの専門家です。立つ、歩く、走るといった、そうした人間の基本生活に必要な動きを、受傷者に獲得させる職業です。
――他の医療関係職との違い、棲み分けは、どのようなものでしょうか?
たとえば薬をもらうのに、風邪をひいたら処方箋が出ますよね? それと同じで、ケガに対して、医師からPTに処方が出されます。薬なのか、注射なのか、レントゲンなのかMRI(磁気共鳴画像)なのか、あるいは手術なのか。その処方の中に、リハビリテーションというものが含まれます。医療機関で医師の判断なしに、PTが勝手に診断して治療をすることはありません。
鍼灸師は、スポーツで言うと、筋肉の張りや硬さを取るために鍼を打つスペシャリストですよね。PTは鍼を打つことができません。我々PTは、電気、超音波などの物理療法を行います。柔道整復師は、脱臼などの整復をし、ギブスを巻いたりします。PTが脱臼の整復を行うことはできません。
――AT(アスレティックトレーナー)と混同されることも多いように思います。
PTは国家資格であり、ATは団体の認定資格であるという違いがあります。PTの強みは、医学的知識に基づく、機能評価だと思います。評価から問題を割り出し、アプローチしていく。そこのスキルが最も長けているのが、PTという職種だと思います。
――選手ではない、一般の患者がPTと接するのは、どういった機会が多いのでしょう?
町の個人開業医のリハビリが、身近な場だと思います。大学病院や市民病院などの大きな病院では、外来のリハビリ自体を受け付けていないことがあります。ちなみに、PTには開業権はありません。接骨院などと異なるところです。コンディショニング施設というような形で、保険対象外のマッサージを行うPTは増えています。
――PTの仕事は、必ずしもスポーツ専門というわけではないのですよね?
大きく分けて、脳血管、循環器、呼吸器、運動器の疾患があります。この運動器疾患の中にスポーツがあるという位置付けであり「PT=スポーツ専門家」というわけではありません。たとえば、脳卒中のリハビリ専門のPTもいます。
――スポーツに携わっているPTの割合は、どのぐらいなのでしょうか?
実数は不明ですが、携わっていないPTの方が圧倒的に多いです。勤務している病院に選手が来れば、スポーツのリハビリを受け持つPTもいるでしょう。ですが、整形外科は必ずしもスポーツばかりを扱っているわけではありません。スポーツ整形外科を標榜している医療機関も増えています。ですが、スポーツ選手ばかりを扱っているかというと、そうではなく、地域に根差した医療を実施していらっしゃると思います。たとえば、私が現在非常勤で携わっている病院ですと、スポーツ選手の患者さんが4割いるとすれば、多いと言えるかと思います。
――神鳥さんはスポーツに携わりたくてPTを志したのでしょうか?
そうです。私が最初に勤務した病院は、スポーツ整形外科ではなく、膝と肩の専門医が多く、内視鏡で膝の前十字靭帯や肩の手術などを、多く扱っていました。そのため、結果的にスポーツ選手が集まる病院となっていました。希望してそこに就職しました。自分自身がケガをしてPTを志す人は多いです。しかし、実際に卒業する段階になって、スポーツ関連の組織に就職する人数は少ないです。間口が狭いことや、教育を受ける過程で、他のことに興味が移っていくことも理由です。大学の同期の中では、スポーツ方面の進路を選んだのは、私1人だけです。
今回のインタビューでは、PTという職業についてご説明いただいた。PTの中でも、スポーツ専門のPTがどれだけ稀少な存在か、ご理解頂けたかと思う。次回以降、ケガの予防、治療法について、より具体的な話を聞いていく。
取材・文/木村卓二
神鳥亮太(かんどり・りょうた)
1977年8月4日、広島県広島市出身。理学療法士、日本体育協会公認アスレティックトレーナー。2000年、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻を卒業し、理学療法士免許を取得。以後、三菱名古屋病院で膝関節、肩関節疾患などのリハビリテーションを担当。現在はジャパンラグビートップリーグ・豊田自動織機シャトルズのヘッドアスレティックトレーナーを務める。