日常に取り入れられるエクササイズメニューをパーソナルトレーナー・澤木一貴さんにご紹介いただく本企画。今回はメニュー紹介に先立ち、健康維持における筋トレや運動の意義について伺いました。「年齢が若くても、体は使わなければ衰えていきます」と澤木さん。トレーナーから見たエクサイズの重要性とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
体の衰えは10代から始まっている
――本企画では、日常に取り入れられる筋トレやエクササイズをご紹介いただきます。健康の維持や向上において、これらが必要な理由とはどのようなものでしょうか。
「まずは、体の衰えを防止することが挙げられます。前提として、人間の体は使わないとどんどん衰えていきます。小学校の頃にブリッジができた人でも、20~30代になってできる人はほとんどいないと思います。今まで運動不足というと中高年層のイメージがありましたが、近年は若年層であっても運動の機会が減っているのが現状です」
――若ければ安心というわけではないと。人の体は大体どのくらいから衰えてきますか。
「おそらく、10代から落ちていると思います。よく体の状態は20歳がピークと言われますが、それはあくまで運動競技をやっていた場合です。僕は小学生に運動を教えることもありますが、小学生にしてすでに猫背で、体がガチガチという子も見かけます。コンディション的に言うと、大人にならないままお年寄りになるというような子どもができてしまうのが、現代の恐ろしい点とも言えると思います」
――その状況を改善するためには、筋トレをはじめとした運動を取り入れるべきということでしょうか。
「はい。何より体を動かすことかと思います。人間は運動連鎖といって、下半身であれば足・スネ・ヒザなどが積み木のようにつながっていて、それらが連鎖して動いています。そして、その連鎖をつないでいるのが筋肉なのです。筋力が衰えると連鎖が崩れて脚が衰えたり、炎症が起きるなどいろいろな問題が起こってきます」
――筋力の低下が原因で、体に悪影響が出るようになると。
「はい。先ほどの例だけではなく、胸郭まわりの筋肉が衰えて呼吸が浅くなるなど、さまざまな弊害があります。そしてそれは、悪い意味で連鎖していくことがあるのです。たとえば呼吸の低下によって肋骨の動きが悪くなったり、肩甲骨や上肢の動きにまで影響を及ぼすこともあります。ハムストリングスが硬すぎて骨盤の動きが失われ、それを代償するためにヒザが悪くなるというケースもあります。『ここが衰えるとこうなる』といったテンプレートがあるので、非常に注意が必要です」
――現代人の体が衰えているのはどうしてなのでしょうか。
「『科学の進歩と肉体の退化』という表現を僕はよく使うのですが、世界が便利になればなるほど、体が衰えていくのが現状です。駅を見てもエスカレーターは長蛇の列ですし、街のいたるところに電動サイクルなど、サブスクリプション式の交通手段も整備されてきました。便利になったからこそ、意識して体を動かさないと運動の機会は減る一方です」
――別の視点からになりますが、年齢を重ねるごとに、骨や筋肉の合成が低下するという情報を見かけました。
「たしかに骨と筋肉はつねに合成・分解が繰り返されていて、歳を取るごとに分解作用が強くなっていきます。ただ、筋肉のほうがまだ合成する力は保たれているのです。生きている間は筋トレをして適切な栄養と負荷を与えられていれば、筋肉は確実に発達していきます。若い時ほどの伸びしろはありませんが、その年に応じた進化を続けることができます」
――筋力の維持は努力次第で可能で、健康に及ぼす好影響も大きいということですね。
「そうですね。健康的な体を構成するのは筋力だけではありませんが、中でも筋力は重要なウエイトを占めていると思います。極論を言えば、歳を取っても転ばなければケガはしないわけです。寝たきりにならないことで二次的な健康被害も防ぐことができますし、介護も必要ありません」
――そのためにも、ぜひ筋トレやエクササイズの習慣をつけたいところですね。
「はい。とはいえ人間を車にたとえるとしたら、つねに最高級車である必要はないんです。その人にとってちょうどいい状態があると思うので、いきなり本格的な運動をする必要はありません。まずはできることから、小さな変化を日常に加えていくといいと思います」
(次回に続く)
取材・文/森本雄大
写真/シュー・ハヤシ
澤木一貴(さわき・かずたか)
1971年5月3日、静岡県出身。日本大学在学中にエグザス二子玉川でマシンインストラクターを務める。大学卒業後、パーソナルトレーナーと並行して、フジ虎ノ門整形外科病院スポーツトレーナー科(主任)、ヒューマンアカデミー東京校スポーツカレッジ(常勤講師)などを歴任。2010年にSAWAKI GYMを創設した。現在は早稲田本店、高田馬場店、沖縄北谷店を運営。トレーニングに関する数多くの著書も持つ、パーソナルトレーナー界の第一人者の一人。