セネガル女子サッカーリーグに参加する
増田萌子さんにセネガルサッカーを聞く
――サッカーのお話の前に、なぜセネガルにいるのか教えてください。
増田:国際協力機構の青年海外協力隊隊員として派遣されています。私の任務は、学校の先生と協力しながら、小中学校の体育の授業の質を向上させることと、女子スポーツの推進です。体育の授業は、カリキュラムに組み込まれてはいるんですけど、きちんと実施されていないことがあるんです。
崇高な任務だ。なんだか自分が恥ずかしくなってきた……。だが、落ち込んでいる場合ではない。気を取り直して、サッカーのお話をうかがう。
――セネガルでプレーするようになったきっかけを教えてください。
増田:セネガルに来る前から、今までのサッカー経験(※元東海大学女子サッカー部副キャプテン)を活かして、セネガルの女子サッカーに何か貢献したいと考えていました。友人から紹介されて、チームを見学に行ったら、当たり前のように練習に入れられて、帰るときには「明日も来るよね?」って言われたんです。見学に行っただけなのに、もうチームに加入したことになっていました(笑)。
――公式戦にも出場しているのですか?
増田:最初の年は、選手登録の手続き上の問題があってダメだったんですけど、昨年から出場しています。初めて出場したときのことは、夢中だったのであまり覚えていません(笑)。1年目からずっと試合に出たいと思っていたので、とにかく夢中でした。
――所属クラブは、ダカールから車で約2時間という場所です。アウェイの試合での移動、大変ですか?
増田:チームで前泊をするんですよね。初めてのとき、どんなところに泊まるのかなと思っていたら、屋上でした(笑)。みんな「マイシーツ」を持参して雑魚寝です。蚊帳を持参している人もいて。私はそんなことも知らず、蚊の対策もしていなくて、蚊に刺されまくりました。
――マラリアとか怖いですけど、メンタル強くなりそうですね。セネガルの女子選手の特徴って、どういうものですか?
増田:とにかく主張します。何か指摘されたときは、すぐに受け入れるのではなく、必ず「いや、私は〇〇がしたかったんだ」と自分の意見を述べます。そこから喧嘩が始まることも多々ありますね。時には取っ組み合いも……。試合に勝つと、帰りのバスでは太鼓を叩いて、踊って、みんなお祭り騒ぎですが、勝ったときと負けたときの差がすごいです。感情表現が激しいところは、すごくセネガルらしいと思います。
――身体面での特徴はどうですか? 背が高い人が多いですけど、やはり女子もフィジカルが強いんですか?
増田:そうですね、女子サッカーも背が高い選手が多く、フィジカルが強いです。特に足腰がしっかりしているイメージがあります。ただ、体力は全体的にないのかなと感じますが……。それから、練習の中で感じるんですけど、アジリティ系は苦手なのかなという印象です。足元の細かいステップが踏めなかったり、ダンスが得意なセネガル人ですが、リズムがまったく取れなかったり。
――リズムが取れないセネガル人って、意外です。勝手なイメージですけど、国籍詐称という気がします。砂のグラウンドで練習していますけど、どんな感じですか?
増田:日本みたいな土だったらいいのですが、砂浜みたいな砂なんですよね。とにかく走りづらいです。私個人の感覚ですが、芝のグラウンドで走るよりも2倍疲れます。
――見た目以上に厳しいコンディションなんですね。砂の上でプレーすることで、ご自身のプレーに変化や影響はありましたか?
増田:私自身、未だに砂でのサッカーに慣れていないのですが、芝での試合のとき、今まで以上に走りやすく、ボールの感覚がつかめる感じがしています。
――かなり大きな影響ですね。ところで、男女間のサッカーの違いはありますか?
増田:少し話がずれるのですが、男の子がサッカーをするとき、初めは靴下や靴を履いているのに、途中で裸足になることが多いんです。スパイクを履いている子でも、いつの間にか裸足になっていたりとか。靴を履いてサッカーをするより、裸足のほうが、足でボールの感覚をつかめるんですかね……。
――わかるような気もしますが、謎ですね……。スパイクを履くと、逆に足元の細かさがなくなるんですかね?
増田:きっと普段から裸足で過ごすことが多いから、細かさがなくなるというよりは、慣れてないんですかね。靴を履いているとムズムズするのかな……(笑)。
やはり、砂の上でのサッカーというのは、多大な影響がありそうだ。カメルーンやコートジボワールなどの場合は赤土なのだが、セネガルは砂。同じアフリカでも、かなり異なる環境と言えそうだ。結果、足元のテクニックには課題が残り、フィットネスは乏しいものの、背が高く当たりは強い。これが典型的なセネガルのサッカー選手ということなのかもしれない。
なお、増田さんは、セネガル女子U20代表の日本遠征実現に向けて奔走している。あるクラブ主催の大会への参加を打診されているのだが、渡航費などは自費。セネガルサッカー協会の予算の都合で参加実現が危ぶまれているため、スポンサー探しや、両国間の連絡調整などを、自ら行なっているのだ。W杯での対戦を機に両国の交流が深まり、この遠征計画も実現することを願ってやまない。
この活動に賛同してくださる方は、企業と個人とを問わず、ぜひ
senegal_japon_footballfeminine@yahoo.co.jp
までご連絡いただきたい。
日本セネガル戦、いよいよキックオフの時が近づいてきた。増田さんの現地での活動の様子は、日本セネガル戦が行なわれる6月24日、日本テレビの試合直前特番でも取り上げられる予定だ。試合前の予習として(?)、ぜひご覧いただきたい。より詳細なサッカー分析は、専門媒体や読者の皆さんにお任せするが、文化的側面やメンタル面、そしてフィジカル&フィットネスという視点からも、この試合を楽しんでいただきたい。
取材&撮影・木村卓二