2023年、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)主催の国内無差別最高峰『フィットネス・ジャパン・グランド・チャンピオンシップス(通称グラチャン)』で2連覇を達成した伊吹主税選手。フィジークにおける体を追求するにあたり、昨年は審査基準の変化が話題に上がった年でもあった。フィジークらしさとは何か。そして、自分らしさとは何か。課題に真摯に向き合ったからこそ見えてきた、競技者としての境地とはいったい――。新年を迎えて飛躍を誓う、伊吹選手に話を聞いた。
【フォト】我慢の一年でつくりあげた、伊吹選手の極上フィジークボディ
日本のトップ勢は異次元の存在でいたい
――2023年を振り返っていかがですか。
「オールジャパンは3連覇が、グラチャンも連覇がかかっている。ましてや寺島遼さんの記録に並ぶというので、プレッシャーは今までよりも大きかったです。とくにオールジャパンは勝たないとスペインに行けないというプレッシャーもありました。それと同時にフィジークの評価基準が変わるということで、去年の大会で優勝した時にIFBBのパウエル国際審査委員長などから『体が大きすぎる』『筋肉が隆々とし過ぎている』と言われていたんです。それで2023年は、サイズを落とすというよりもう少し自然に見せることを意識して、仕上がりが1kg落ちました。結果的に優勝することができたのでよかったんですけど、そこに連覇のプレッシャーもあって、かなり過酷な1年だったなという印象です」
――鍛える以上は大きくしたいけど、勝つことを考えるとそれができないジレンマもあったと。
「そうです。そのためにトレーニングのルーティンを変えたりもしました。去年の体は肩が隆々として大きすぎたので、肩の頻度を減らして自分の弱点である背中に回したりとか」
――強みである肩のトレーニングを減らして、バランスを整える方向にシフトしたんですね。
「そうですね。あとはいかにウエストを細く見せるかという点で、日頃からウエストシェイパーを巻いたりとか。一番意識したのはグラチャンで2位だった長澤秀樹選手ですね。長澤選手はとくに見せ方がうまいので、彼を研究して戦いに挑んだ1年でした」
――昨年10月には世界選手権に出場しましたが、手ごたえはいかがでしたか。
「身長的に微妙なところだったので今回は階級をひとつ上げて挑んだんですけど、そうなると僕はその階級の中で一番小さな身長になるので、体のサイズもみんな僕よりはるかに大きいなって思っていました。僕自身、予選で落ちると思っていたので、たまたまベスト6まで残れたという感覚なんですね。ただ、せっかく日本ではサイズを抑えて戦ってきたのに、世界の舞台は違うんだなという矛盾が生じたのは悔しかった部分です。鈴木雅さんが言われていたように、基準に合わせるのではなく自分のなりたい体に持っていったほうがいいかなと感じました。今回の世界選手権で言えば、大谷美咲さんが結果で証明してくれましたよね。自分よりもはるかに体が大きい人と並んでいるのに、一つひとつの部位のメリハリとバランスがいいから優勝することができた。まさにあれが理想かなと僕自身も思ったので、ただ大きくなるのではなく一つひとつの体の部位をきれいに大きくしていくことが今後の目標です」
――単純に大きくしたり抑えたりするのではなく、フィジークらしさを基準に置いて追求したいと。
「はい。なので今年は去年の体をバージョンアップさせた形になるんじゃないかなと思います。一昨年、デカ過ぎると言われた体よりも大きな仕上がりで、なおかつフィジークらしさが残った自分らしい体に2024年は仕上げていきたいですね」
――昨年11月に新幹線の運転士をお辞めになったとのことですが、理由としてはフィットネスにより注力したいからですか。
「そうですね。両立できないことはないと思うんですけど、限られた時間の中だとどうしても行動範囲もできることも限られてしまうので。仕事をしている時間をもっともっとフィットネスに活用できたらなという思いが強くなってきて、二足の草鞋よりも競技にしっかり軸足を置いてやっていけたらという感じですね。肩書的にも新幹線の運転士をしながらフィットネスで日本一に輝くというのはかっこいいんですけどね(笑)」
――今後はどんな活動をしていく予定ですか。
「トレーナーとして活動しつつ、JBBFさんの力をお借りしながら講師のような立場で全国を回ったりできればなと思っています。僕は2019年に競技を始めてから3年で身長別の日本一になっているので、この競技の素晴らしさを伝えるとともに最短で頂点に近づくためのアドバイスなどもできればと思っています」
――最後に今年の抱負をお願いします。
「2023年は考えさせられる年だったので、来年はもっと自分らしく、より高みを目指していきます。僕の中では、日本のトップ勢というのは異次元の存在でいたいんですよね。言ってみれば、野球少年から見たプロ野球選手のような。より自分らしく異次元の体で大会に出場して、何連覇という数字以上のものを持っている選手になりたいなと思います」
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