御年87歳、現役でボディビルダーを続ける金澤利翼(かなざわ・としすけ)は、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)においてトップクラスの年長者だ。学生時代に水泳選手として活躍すると、20歳からボディビルに転向。2度の日本チャンピオンに輝いている。
一度は現役を離れたが、50歳で競技に復帰。衰え始めていた自らの体と向き合い肉体をつくり直した。40歳以上が集う日本マスターズボディビル選手権での実績は、前人未踏の優勝14回。そして今なお、肉体を向上させ続けている。そんな鉄人ビルダーにシニアの筋トレのポイントについて語ってもらった。
【フォトギャラリー】金澤が14回目の優勝を達成した日本マスターズ選手権
重要なのはとにかく無理をしないこと
――金澤さんがミドル年代から体を鍛え直すにあたり、意識した点を教えてください。
「大事にしているのは無理をしないということです。高重量は扱わず、とにかく筋肉に効かせて、疲労させて、あとは栄養を摂っていかに回復させるか。若い時のような回復力はありませんので、そのあたりは重視しています」
――1週間のトレーニングルーティンはどのような形でしょうか。
「基本的には各部位を週1回で設定しています。そのうえで背中など強化したい部位は週2回やりますね。若い時には1回のトレーニングで6種目くらいできましたけど、今はもう歳なので4種目くらいしかできません。合計で週に6日はトレーニング日を確保しています」
――重量やセット数はどのように設定しますか。
「重量は自分の能力に応じて一概には言えないですが、無理なく効かせられる重量で設定することだと思います。私はセット数を4にしていますね。トレーニング時間は1日2時間です。若い頃は6時間近く根を詰めることもありましたけど、今はコンディションを考慮して短くしています」
――各部位を週1回鍛える形でも効果は見込めるのですね。
「はい。私はもうおじいさんですから、トレーニング後の回復に4日はかかるんです。やりたい気持ちはありますけど、抑えて週に1回にしています」
――種目はどのような内容ですか。
「たとえば胸の日でしたら、インクラインベンチプレス、デクラインベンチプレス、ディップス、それからダンベルプルオーバーなどベーシックな種目で組み立てます。パラレルバーを使って鍛えることもあります。マシンよりもフリーウエイトのほうが割合としては多いので、なおさら重量設定には気を配ってケガをしないようにしています」
――年齢を重ねてから体を鍛えるには、コンディションへの配慮が必要不可欠なのですね。
「そうですね。若い頃とは回復にかかる時間が圧倒的に違いますから、とにかく無理をしないこと。ケガに十分注意しつつ、リカバリーの時間をしっかり設けることだと思います。その点に気をつければ、歳を重ねてからでも筋肉をつけることは可能です」
――最後に高齢者のみなさんへのメッセージをお願いします。
「やっぱり努力することを忘れないでほしいです。誰もがいつかは歳を取り衰えていくんですけど、その時からでも努力は必ず実を結んでくれますからね。若い時は体力があるから人生をエンジョイできますけど、問題は老後にどんな素晴らしい人生を送れるかです。どれほどお金があっても、体が衰えたり病気がちだったりしたら仕方ない。健康はお金に変えられない貴重なものですからね。そのためにも健康的な食事やトレーニングを取り入れれば、健康寿命を延ばしていけると思います。うれしいことに励ましの言葉をもらうことも多いですから、私もまだまだ健康でがんばっていきたいと思いますよ」
取材・文/森本雄大
写真/木村雄大