ボディビルという競技においては、いかに体を大きく見せるかがポイントとなり、そのために顔はできれば小さく見えたほうがいい、表情もしっかり見えたほうがいい、ゆえに髪も短い方がいい。以前、日本王者となった横川尚隆は「前髪があって日本一になったボディビルダーは俺が初じゃないかな」とも話していた。だが…ステージ上に現れたその青年はパーマがかかったようなセミロングヘア―、しかも額にまでもっさりかかっていた。
彼の名は、東京大学2年生の岡野陸。9月22日に開催された「第64回関東学生ボディビル選手権」で独特の風貌でステージに立ち、見事に第2位を獲得。会場からは「(キン肉マンに出てくる)バッファローマンだ!」という声が飛び、さらに部分賞においても「胸」と「モストマスキュラー」を受賞。3つのメダルを手にし、「本当に結果は出来過ぎな感じですね。個人的には、去年より仕上がりを高められたのが良かったと思います」と大会を振り返った。
もともとは、東大のサッカー部(ア式蹴球部)に所属。だが怪我によりリハビリを余儀なくされ、その際に行なったトレーニングにハマってB&W部(ボディビル&ウェイトリフティング部)へ転部したという。
「サッカーをやっていたときから筋トレ系のYouTubeを見ていたりしてはいました。だから、この部に入るなら大会に出ようと思っていましたし、大会に出ることに対する心のハードルみたいなものはなかったですね」
ボディビル初参戦となった昨年は関東で13位、全日本で15位であり、今年は一気にジャンプアップを達成。下半身に関しては上位選手と比べるとやや見劣りするものの、仕上がった上半身は一級品だ。とはいえ本人は「この1年でどこを特別鍛えたっていうのはなくて、とにかく全身をがんばろうという感じで。普通のことをやっているだけだと思いますよ(笑)」と笑う。
この日の彼のステージを見ていて印象的であったのは、一次予選審査で登場した際のインパクトはそこそこながら、二次予選、部分賞審査、決勝審査とラウンドが進むごとに見栄えが向上していった点である。一般のボディビル大会に比べてポーズをとる回数が多い学生ボディビル大会においては、「ステージ体力」が重要なファクターであり、今週末に東京で行なわれる全日本学生選手権でも岡野はその力を生かして上位へ食い込んでくるはずだ。
「また明日から筋トレして、最後まで精いっぱいやるだけです。この大会に向けて今週やっていたことがうまくいったと感じていますが、同じことを継続するかは疲労も考えて状態を見ながらにはなります。また良い体をつくって、ステージに立ちます」
ちなみに、最後に聞いてみた。「その髪型は、何か狙っているんですか?」と。
「いや…別に(笑)。普通にしてたらこうなっただけです。去年もこの髪型で出て、一度切ったのですが、またこれでいこうと思っただけです(笑)」