「四国アイランドリーグplus」に所属する「愛媛マンダリンパイレーツ」。プロ野球(NPB)入りを狙う選手たちが多く集っている、独立リーグの球団だ。今回はボディメンテナンスをテーマとして、同球団に所属する廣澤優投手と泉田竜洋トレーナーのストレッチ事情に迫った。
選手の要望に応じた指導・ケアを大切にしている泉田トレーナー。そんな彼が、「ストレッチへの意識が高い選手」として推薦するのが、スカウト注目のリリーバーである廣澤優投手(23)だ。
日本大学第三高等学校から社会人野球の強豪・JFE東日本に進み、NPBを目指して独立リーグに挑戦した廣澤投手。高校2年時に肘のケガを経験して以降、体のケアに対する意識が変化し、今では毎日ストレッチに1時間はかけるほどの徹底ぶりだ。そんな彼をはじめとした選手たちのケアを行なっている泉田トレーナーだが、とくに選手たちにストレッチをするよう強く指示することはないと言う。
「チーム全体にはストレッチの方法などを伝えますが、あとは選手がどう捉えるかでしょうね。プレー後のストレッチに関しては、独立リーグという特性上、なかなか試合直後は時間が取れませんし(独立リーグの選手には試合後、観客の見送り、ミーティング、球場の撤収作業などの業務がある)。J3時代は、試合後にチーム揃ってのクールダウンはあったんですが、野球の独立リーグの場合は練習後すぐに解散なんで、クールダウンのストレッチを全体で行なうことはありません。僕としては、試合や練習直後のストレッチよりは、食事や休養などを優先したほうがいいと思っているので、そこはさほど問題ではないと思います。その分、試合翌日に選手から要望があれば、一人ではできない足まわり、ハムストリングスを伸ばすようなストレッチは一緒に行ないます。マッサージのほうがいいと言う選手にはマッサージをするんですが、そのあたりは人によりますね」
投手が実践するストレッチ
肘の故障歴のある廣澤投手が、ひとりでできるストレッチとして紹介してくれたのは、以下のようなストレッチだ。両ヒザを床に置き、指先が体側を向くように手のひらを床につけて前腕の裏側を伸ばす野球経験者ならおなじみの方法だが、これは肘の腱を伸ばすのに効果的と言われている。廣澤投手の場合、これを手のひら全体だけでなく指一本一本別々にも行なうという。このストレッチに関しては、泉田さんも太鼓判を押す。
「指を動かす筋肉は肘につながっているんです。選手によって張っている箇所や硬い腱は違うでしょうから、一本一本の指を別々に伸ばすのは効果的でしょうね」
廣澤投手は、試合前にはポールを使ってのストレッチもよく行なっていると言うが、その時も掌と指のストレッチは欠かさない。
前期シーズン(四国アイランドリーグplusは前後期制を採用)は主に先発として活躍。完封での白星も挙げた。後期シーズンはリリーフに転向し、先発、リリーフどちらでも力を発揮できることをプロに示している。登板試合にはスカウトが陣取ることも多く、夢だったドラフト指名も現実になりつつある。
最後に、廣澤投手は「自慢のストレッチ」を披露してくれた。親指を前にして手を腰に当て、脚を開いてしゃがみ込む、いわゆる「ヤンキー座り」のような状態から肘を前方に折りたたんで、両脚の間に入れるのだ。取材時に筆者もやってみたが、とてもではないが両ヒザをいくら広げてもその間に腕は入らない。泉田トレーナーに聞くと、「僕もできません」と一言。一般人にはとてもではないができない芸当のようだ。本人が自慢するのもうなずける。
それだけでも十分な特技なのだが、廣澤投手はさらに肘を寄せ、最終的には両肘がほとんどくっつくくらいまでもっていった。自分の上半身を折りたたんだのだ。投手には肩甲骨の柔らかさが求められるというが、まさにそれを証明している。
泉田トレーナーいわく、「やはり他のポジションよりピッチャーのほうが、全体的に体が柔らかい人が多い」とのこと。やはり「プロ予備軍」クラスまで進むには、そういう天性の柔軟性が必要なのだろうか。しかし、その「天性」については、泉田トレーナーは否定的だ。
「廣澤投手はともかく、実際独立リーグレベルだと、まだまだ体が硬い選手は多いですよ。でも、それも日々の努力でなんとかなります。先日、うちの弓岡(敬二郎)監督からこんな話を伺ったんです。監督は、NPBのオリックスで長年指導者をされていたんですが、教え子のひとりにあのイチロー選手がいるんです。現役時代、しなやかな体の動きをしていたイチロー選手ですが、プロに入りたての頃はすごく体が硬かったそうです。ストレッチはやはり日々の努力が大切なんでしょうね」
「ローマは一日にしてならず」の言葉通り、ストレッチも毎日のたゆまぬ努力があってこそ、効果が出るのだろう。