「今年の日本選手権は過去一で楽しかった」、そんな言葉をSNS上で多く見かけた今年のJBBF日本男子ボディビル選手権(10月6日、大阪)。その一因をつくったのは、間違いなく新時代を築く筋肉怪獣・刈川啓志郎(初出場3位)だろう。
「優勝を目標にやってきたので、純粋に悔しいという思いはあります。ただ、目標としていたファイナリスト入り、表彰台に立つというところは叶えることができたので、よくがんばったなと今は自分を褒めたいと思います」
大会後、JADAのドーピング検査を終えた刈川は、悔しさをにじませながらも冷静に大会を振り返った。学習院大学2年生時の2022年にボディビルデビュー、夏にマッスルゲートに出場し2クラス優勝。その年の学生選手権は、関東大会で優勝、全日本は宇佐美一歩に敗れて2位。昨年はリベンジを果たして優勝と、歩んできたボディビルキャリアは順調そのもの。
一浪しての大学入学であったこともあり、一足先に学生大会からは卒業し、今年は一般部へ。勢いそのままに8月にはミスター東京(東京選手権優勝)に輝いた。
「東京選手権の頃は腰の怪我もあって満身創痍の状態で、なかなか重量を上げられない状況でした。その影響もあり、まずは完治を優先し、出場を予定していたジュニア選手権は回避してこの日本選手権を目指すことにしました。怪我が治ったことで、自分本来の強度のトレーニングを取り戻しつつ進化ができたのではないかと思います」
東京選手権後には「背面」を自らの弱点として挙げていたが、この日本選手権では、改善の余地を残しながらもトップと十分に張り合えるほどに完成度を高めていた。
「背中を良くしなければ、絶対に上位には残れないと思っていたので一番の重き置いてトレーニングしてきたところです。腰が治ったことで、背中やハムケツのトレーニングがかなりの高強度にできるようになりました」
迎えたこの日本選手権では、ピックアップ審査からアクセル全開で存在感を発揮する。特に際立ったのは、従来から武器にしていた太すぎる大腿四頭筋。カットの深さはこの日ステージに立った選手の中でもトップクラスで、「エグすぎる」といった声でポーズをとるたびに会場が沸き上がった。
ピックアップを通過し、見事にファイナリストに。比較審査のファイナルコールで木澤大祐、嶋田慶太とともに名前を呼ばれると、「これがTOP3の比較だ」と確信したのだろう、小さくガッツポーズする姿も。
結果としてこの2人には及ばずに3位とはなったものの、ボディビル界に与えたインパクトは絶大。かの相澤隼人でも、2019年に東京選手権を獲った後に出場した初の日本選手権では9位。あるいは杉中一輝も、2022年のジュニア選手権優勝後の日本選手権では9位。近年のそうした結果からも新参者の上位入賞がいかに困難かは言うまでもなく、初出場で3位というのは、衝撃的な出来事であるのは明らかだ。刈川自身も2022年のインタビューの際に「3年後の日本選手権でファイナリスト入り」を掲げていただけに、想像を絶するスピードで日本のトップランカーへ駆け上ったことになる。
今回の結果をもって、“勢いある若手”を脱し、“日本のトップ選手”として今後見られていくだろう。だが、これまでもそうだったが、心には灼熱の闘争心を灯しながらも、常に冷静に自分に向き合い、課題を改善しステージに立ってきた刈川。「競技者の中では若いですし、改善すべきところは多いので、これからやるべきことやメンタル的にもあまり大きくは変わらないんじゃないかなと思います」と、驕ることもなさそうだ。
「全身のバルクアップと、怪我をしないこと。加えて最後の調整を自分の体と相談しながら来年もうまくやっていければと思います」
そして最後は、シンプルに言い放った。
「来年の日本選手権の優勝します」
青天井の勢いで成長する刈川啓志郎。早くも、1年後の戦いが楽しみである。