Netflixで配信され話題となっている「極悪女王」。本作は女子プロレスラー・ダンプ松本の壮絶な人生や、当時の女子プロレスの熱狂を描いたフィクションである。ここでは、そんな時代のリアルを時系列で振り返っていく。
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1983年、髪切り戦で丸坊主にされたジャガーがラ・ギャラクティカに雪辱しWWWA世界シングル王座奪回をはたした6・1大宮スケートセンターでは、飛鳥が松本から全日本王座を取り戻した。6月には大森が堀とのチームでWWWA世界タッグ王座を奪取。王座決定3番勝負最終戦での獲得だった。
そしてこの夏、長与と飛鳥がクラッシュギャルズを結成、正式にタッグチームとして始動した。元・極真空手王者の山崎照朝がコーチとして空手殺法を伝授。伊豆・稲取温泉での特訓を経た8・27後楽園ホールで堀&大森のダイナマイトギャルズが保持するWWWA世界タッグ王座に挑み、敗れはしたものの新時代到来を感じさせたのだ。その魅力を敏感に察知したのは、10代の少女たちだった。
9・23戸田市スポーツセンターにおいて長与がミミのオールパシフィック王座に挑戦し、両者KOに。この日、中野が2対1ハンディキャップマッチでデビュー。相手のひとりが柳下まさみ。現レフェリーのTommyである。
長与&飛鳥のクラッシュは、11月から12月にかけて開催された「フジテレビ杯争奪タッグトーナメント」に優勝。全女のトップランナーとして、さらなる弾みをつけたのだった。
84年1・4後楽園ホールで松本がダンプ松本に改名。以後、チェーンなどの凶器攻撃を堂々とやってのけ、流血も辞さない狂乱ファイトに覚醒することとなる。この日、クラッシュは堀&大森のWWWA世界タッグ王座に2度目の挑戦。翌日も同所で試合が行なわれ、長与が立野を破り全日本ジュニア王座に返り咲いた。また、飛鳥は1・18静岡産業館でユウに全日本王座防衛後、返上。ダンプはユウと組んで1月26日、WWWA世界タッグ王座に挑戦した。
そして、2・28相模原市総合体育館でダンプがデビルに造反する。デビル軍団は解散し、3・17桐生市体育館からダンプとユウが極悪同盟を結成。極悪同盟には謎の覆面マネジャーと阿部四郎レフェリーが帯同するようになった。
その頃、クラッシュは伊豆での合宿にて再び特訓。空手殺法に磨きをかけるかたわら、長州力や前田日明など男子プロレスのエッセンスも取り入れるようになっていった。この時期には、女子プロレスを描くドラマ『輝きたいの』がTBSテレビにて放送。さらに7月からフジテレビの『全日本女子プロレス中継』が、ビューティーペアのブーム以来となる5年ぶりのゴールデンタイム放送を復活させた。
6・28川崎市体育館ではマスクド・ユウあらためクレーン・ユウがダンプとの極悪同盟でWWWA世界タッグに挑戦。この日、ジャガーとデビルが初タッグを結成し、クラッシュと30分時間切れ引き分けに。
8月21日、人気沸騰のクラッシュが歌手デビュー。『炎の聖書(バイブル)』がリリースされ、人気に拍車をかけた。10代の少女を中心に、老若男女が知る国民的アイドルへと昇華していったのだ。歌手としてのクラッシュギャルズはその後、トータルでシングル7枚、企画ものも含めアルバム8枚をリリースすることとなる。
そして、デビュー曲発売から4日後の8・25後楽園ホール、クラッシュが堀&大森を破り、3度目の挑戦にしてWWWA世界タッグ王座戴冠をはたしてみせた。が、その後の「WWWAタッグリーグ戦」ではジャガー&デビルが長与&飛鳥を破り優勝。クラッシュの壁として立ちはだかった。それでも、10・6後楽園ホールではクラッシュがラ・ギャラクティカ&ローラ・ゴンザレスを破りWWWA世界タッグ初防衛。12月10日には長与&飛鳥&大森の55年組トリオが実現。こちらも同期のダンプ、ユウにペギー・リーを加えたトリオから勝利を飾ってみせた。また、この年のMVPにはクラッシュが選出されている。
85年(昭和60年)、クラッシュブームは頂点を迎える。まずは、1・6後楽園ホールでクラッシュが山崎&立野にWWWA世界タッグ王座防衛。この月に行なわれた新人オーディションには前年に爆発したクラッシュ人気から空前の入門希望者が集まった。2月には極悪同盟の中野がブル中野に改名、ヘアスタイルも一新し、ダンプの片腕的存在となっていく。
2・25大田区体育館でWWWA世界タッグ王座が移動。ダンプ&ユウが反則絡みでクラッシュからベルトを強奪してみせたのだ。4・2愛知県体育館での再戦は、大荒れの末にノーコンテスト。ベルトはコミッショナー預かりとなった。この時期にはシングルリーグ戦「ジャパングランプリ」が開催中で、4・6後楽園ホールにて長与と飛鳥がクラッシュ対決。試合は、30分フルタイム闘い抜いて引き分けた。ダンプvsユウのパートナー対決も4月26日に行なわれており、ダンプがユウを血の制裁。極悪同盟からの追放を言い渡されたユウは引退を表明した。
レコードをリリースし芸能活動も活発のクラッシュは、コンサートも開催。5月1日、中野サンプラザにてファーストライブを行なった。12日にはメキシコに飛んで大会場エル・トレオにクラッシュで登場。その4日後にはクラッシュが大宮スケートセンターでダンプ&ブルとの王座決定戦を制し、WWWA世界タッグ王座を奪回した。また、この大会では、引退のユウがレフェリーに転向した。
「ジャパングランプリ」決勝戦は飛鳥とダンプの闘いとなり、飛鳥が初優勝を飾っている。芸能活動はクラッシュにとどまらず、極悪同盟もメディアから引っ張りだこ。TBSの『夏・体験物語』出演のダンプは、ドラマをはじめバラエティー番組でも人気となった。クラッシュもまた、負けじとTBS系ドラマ『毎度おさわがせします』にレギュラーで出演。さらに、年末にはクラッシュをはじめとする全女の選手たちがミュージカル『ダイナマイト・キッド』の舞台にも立っている。
8月22日には日本武道館大会が実現。敗者引退のかかったビューティーペア対決以来6年ぶりとなる武道館は、クラッシュが先輩レスラーに挑む図式となった。メインはジャガーvs飛鳥のWWWA世界シングル王座、セミがデビルvs長与のオールパシフィック王座戦。飛鳥、長与のどちらもベルト奪取こそならなかったものの、クラッシュ人気ありきの武道館だったことは明らかだ。
そして6日後の8・28大阪城ホールで長与vsダンプの敗者髪切りデスマッチが行なわれ、大方の予想を裏切りダンプが勝利。長与がリング上で丸坊主にされ、大会場が阿鼻叫喚の地獄絵図と化したのである。
ダンプはこの勢いで、「タッグリーグ・ザ・ベスト」も優勝。ブルとのコンビでクラッシュを退けてみせた。この年のMVPは飛鳥が受賞した。
◆第3回に続く