骨格筋評論家のバズーカ岡田こと岡田隆氏が10日、「【衝撃】なぜ現役世界チャンピオンが?ステロイド使用の経過をSNSに投稿か? 」と題した動画をYouTubeに投稿。ナチュラルボディビル団体・WNBF(World Natural Bodybuilding Federation)が主催する世界選手権において、昨年のヘビー級で優勝したサミュエル・ハートマン(フランス)が自身のSNSでステロイドの使用を公言したことに触れ、その背景を解説するとともに、注意喚起を行なっている。
【フォト】ナチュラルボディビルの最高峰・WNBF世界選手権に出場したビキニ戦士
WNBFは、2023年に岡田氏自身も世界選手権に出場しプロマスターズボディビルにて優勝、2024年も、ジュラシックカップなどに出場した相樂翔が参戦してヘビー級で5位入賞を果たしたボディビル団体で、大会前のポリグラフ検査(嘘発見器)に加え、大会後の尿検査、血液検査、さらに抜き打ち検査も実施しているのが特徴。岡田氏いわく「いま地球上で考えられるもっとも厳格なドーピング検査の方法を採用している」という、ナチュラルボディビルの世界最高峰の団体だ。
前述の通りその大会で優勝したサミュエルは1月9日、Instagramのストーリーに「day 1 not natty(非ナチュラルの1日目)」と、自身の現在の写真とともに投稿。今後、薬物を使用しながらの身体の変化をつづっていく模様である。
彼のInstagramを辿ると、WNBF世界選手権後に「A new chapter(新たなる章へ)」という言葉とともに、ボディビルの世界最高峰である「ミスターオリンピア」を目指すためにWNBFを離れ、NPC(National Physique Committee)へと移籍し、IFBB PROリーグへ活躍の場を移すことを明言していた。また、それに際し、ボディビルに関するニュースを扱うイギリスのスポーツメディアのYouTubeチャンネル「Beyond The Stage TV」にて、サミュエルのインタビューが昨年末に公開されている。
ここでは、そのインタビューから抜粋してサミュエルの言葉を紹介する。ただし、これはあくまでドーピング問題を考えるきっかけとして、価値観の一つとしてあるとして捉えていただきい。決して、非ナチュラル(薬物を使用した)ボディビルを肯定すべきものではないということをお伝えしておく。
――なぜ、WNBFから離れることを決めたのか。
「答えは非常にシンプルです。ナチュラルで世界チャンピオンになるという最初の夢を叶えたからです。私には常に、ミスターオリンピアの舞台に立つという2つ目の夢がありました。ボディビルを始めた頃は、ナチュラルで世界チャンピオンになるまでにどれくらい時間がかかるのか、全くわかりませんでした。自分の階級で優勝することだけを考えて出場した2度目の大会で、プロになることができ、翌年は世界選手権に出場して2位。そして昨年、世界チャンピオンになれました。全てはこの目標のために行動してきたのです。
WNBF初出場の2020年から、ナチュラルの世界チャンピオンになったその日こそ、2つ目の夢に向かう日だと決めていたんです。決して、ナチュラルの団体やナチュラルボディビルに反対しているわけではありません。説明が難しいですが、ナチュラルと非ナチュラルの争いには加担したくないんです。私にとってボディビルは、両方を含めて家族のようなものであり1つのスポーツです。もちろん多くの論争があることは知っていますし、『ナチュラルでないのは良くない』という人がいるのもわかっています。ですが、それは個人の問題にすぎません。両方を経験できるのはとても良いことであり、両陣営がお互いを理解し合えれば、ボディビルはもっと良いものになると思っています」
――NPCではこれまでドーピング検査を実施してこなかったものの、2024年から「ナチュラル」と冠したコンテストもスタートしましたが、目指すのはあくまで非ナチュラル(ドーピング検査がない)の道ですか?
「はい、私は非ナチュラルの道に進みます」
――ナチュラルのまま非ナチュラルの大会に挑むこともできますし、あなたの肉体を見れば十分にそこで戦えるように見えます。それでもなぜ、ナチュラルの道を選ばないのでしょうか。
「まず、NPCのナチュラルを今はまだあまり信用していません。もちろん将来どうなるかわかりませんので、今のところは。新しいナチュラルの部門には、非ナチュラルで勝てなかった選手たちが、不正をしながら出場しようしてくるかもしれないと思っています。
WNBFのポリグラフ検査は非常に興味深いものです。ただし、WNBFのある選手と話をしたところ、彼はポリグラフ検査を全く信用していないと言っていました。私も100%信用しているわけではありませんが、検査に合格しなかった場合は信用します。合格した場合の信憑性は、おそらく…80%くらいなのではないか。そのため、NPCがポリグラフ検査、あるいはそれ以上の検査を実施しない限り、私はこの団体を完全に信用することはできません。WNBFでさえも、本当にナチュラルなのか疑問に思う部分が残っているからです。見た目はナチュラルでも、実際には不正をしている選手がいるかもしれません。
だから私は、誰もが同じ条件で戦っていることがわかっている非ナチュラルの側に進みたいんです。 私のInstagramを見てもらえれば分かりますが、私は黄金時代のボディビルが本当に好きです。それを復活させたい。ナチュラルの舞台ではなくミスターオリンピアやNPCの舞台で、より多くの人々にインスピレーションを与えるような形で復活させたいんです。先ほど言ったように、ナチュラルボディビルやWNBFに反対しているわけではありません。ただ、それをやりたいと2020年からずっとそう思っていただけです。これは新たな章に過ぎません」
――あなたは、ナチュラルのままでIFBBプロカードを目指していくと思っていました。その考えは、頭をよぎりましたか?
「いいえ。私は挑戦することを好みます。 先ほど言ったように、ナチュラルの道を追求したいとは思いません。だから、今すぐに始めたいんです。非ナチュラルの道に進めば、何年も続けられるわけではなく時間は限りがあります。 始めるのが遅くなればなるほど、ミスターオリンピアに出場するまでの時間が短くなってしまいます。私は今25歳で、ホルモンの分泌も盛んです。だから今がその時だと思います。 より多くの人たちと競い合い、自分自身に挑戦したいんです」
――NPCデビューはいつ頃になりそうでしょうか?
「2025年の年末にスタートしたいと思っています。なぜなら、今は筋肉を大きくする必要があるからです。 NPCのリージョナル大会に出場し、その後、来年中にプロカードを獲得したいと思っています。これまでナチュラルの大会に出て、毎年目標を達成してきました。いつも自分のキャリアのスピードに驚かされています。NPCでも同じようにいくのではないかと期待しています。
今後コーチと相談して、薬物使用の必要性や、オフシーズンに目指すべき新たな目標体重を設定する必要があります。おそらく1月から薬物の使用を開始する予定です。目標や手順について詳しく分かれば、SNSで公表するつもりです。私はこのようなことについて、非常にオープンにしています。なぜなら私はボディビルが大好きだから。私は非ナチュラルに移行した、ただのボディビルダーであり、そこに情熱を注いでいるだけです。なので、目標や手順が分かれば必ず発表します」
――この決断に対して周囲の反応はどうでしたか?
「95%以上の人は応援のメッセージを送ってくれました。とても嬉しいです。SNSでの活動を通して、ファンと良い関係を築けていることが実感できました。5%くらいの人…彼らは極端な考え方をしていて、ナチュラルこそが唯一の道だと考えているようです。もし他の目標を目指せば、悪者のように扱われます。ただ、私はあまりそのようなコメントは見ないようにしています。SNSに投稿に対してそのような反応をする人がいることは知っています。私を病気者呼ばわりする人もいるかもしれませんが、そのようなネガティブな意見には、SNSでも実生活でも惑わされません。トップレベルのボディビルをするには、ポジティブな環境が必要です」
――WNBFの反応はどうでしたか?
「2人が、私の決断を支持してくれました。なぜなら彼らは、私が到達しうる最高レベルに達し、他の目標に集中したいと思っていることを理解してくれたからです。彼らには感謝しています。他の人からは、泣いている絵文字のコメントをもらいました。もちろんそれも理解できます。
しかし、先ほども言ったように、別の団体に移籍して別の目標を追求するからといって、WNBFを応援しないとか、ナチュラルの道を応援しないということではありません。 私自身はコーチをしていますし、私のようにキャリアをスタートさせたいと思っている人を指導しています。だから私は常にWNBFを応援していますし。WNBFの中にも、私の決断を理解してくれない人や、極端な考え方をする人がいることは知っています。しかしこれは私自身の目標であり、夢です。 ナチュラルであるべきだという考え方のせいで、自分の夢を諦めたくはありません」
――競技者の中には、ナチュラルのままでいるべきか、非ナチュラルに移行するべきか迷っている人がたくさんいると思います。何かアドバイスはありますか?
「私ができる最善のアドバイスは、『自分の心に従う』ということです。 この決断を下したとき、私は自分の心に従いました。私は本当に正直で、自分の決断や人生の選択に満足しています。人生が充実しています。これが私ができる最善のアドバイスです。
もしあなたが今の人生に満足しているのであれば、それが正しい道です。自分の道、自分の夢に従ってください。もしあなたの夢がナチュラルではないのであれば、好きなようにすればいいんです。 もちろんナチュラルの道も素晴らしい道です。それは戦いではなく、本当に美しい道です。大会もとてもクールで、まるで家族のようです。 だから、両方経験することもできます。ナチュラルから始めて、私のように別の夢がある場合は、その夢を追い求めることもできますし、ナチュラルのままでいることもできます。自分の心に従い、自分らしく生きてください」
――最後に、ボディビル業界をより良くするために1つだけ変えられるとしたら、何を変えるべきだと思いますか。
「ナチュラルと非ナチュラルの争いをなくすことでしょうか。 どちらの側にとっても、時間の無駄です。この愚かな争いをやめるべきです」
文/木村雄大