YouTubeに投稿しているボディビル解説動画が話題の筋肉マニアが、毎週一人のボディビルダーをピックアップして紹介していく連載「解体筋書」。今回は、須江正尋選手の後編です。
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【ムービー】須江正尋、2024世界大会で伝説の「死の舞踏」アゲイン
生き様を示すボディビルディング
あらゆる世代から絶大な支持を得る須江選手ですが、その人気の理由はフリーポーズにあります。彼のフリーは豪快かつ情熱的で、観る人に勇気や感動を与えるような作品となっています。自身の圧倒的強みである背中を何回も見せつけてくれるサービス精神に溢れた構成は勿論のこと、自信に満ちた表情や全身を振るような豪快な身のこなし等、「カッコいい」が詰まったフリーポーズを披露されるんです。
中でも有名なのが、2009年ワールドゲームズにて披露されたフリーポーズです。名曲「死の舞踏」に乗せた伝説級の演技は、世界中の人々を魅了しました。須江選手は、腕の振り方や体の回し方等の「トランジション」と呼ばれるポーズ間の移行動作が非常に美しく、フリーポーズの構成力についても卓越しています。この名作における、曲の盛り上がりに合わせた背中の6連撃は、もはや須江選手にしかできない極上の逸品です。この6連撃の前に客席を指差して「行くぞ、見ておけよ」と言わんばかりの自信に満ち溢れたアピールがまた最高なんですよね。良い意味で、ステージ上においては最高にナルシストな方なのかもしれません。
「死の舞踏」はもはや殿堂入りと言っても過言ではない名作の一つですが、個人的に大好きなフリーポーズがあります。それは2023年の日本選手権で披露されたフリーポーズです。「The Phoenix」という曲に合わせた熱量の高いポージングと気迫は、まさに不死鳥を思わせるものでした。
フリーポーズには様々な要素が絡み合ってその完成度を高めていますが、須江選手の演技において特に輝いているのが、選曲、音ハメ、キレ、トランジション、そして表情です。2023年のフリーポーズはこの全てが完璧で、見ていて気持ちいいほどの音ハメとそれに合わせたポーズのキレは、歴代の選手の中でも最高クラスだったと思います。長い腕を生かした舞い上がるようなトランジションも素晴らしく、定期的に見たくなるほどカッコいいです。そして、一番の見所が須江選手の表情です。演技中の鬼気迫る表情は勿論のこと、終了後の噛み潰すような感情の表れと振り下ろしたガッツポーズには、会場中が魅了されたのではないかと思います。
度々芸術的なフリーを披露してくれる須江選手ですが、これには彼の趣味が大きく影響しています。若い頃の須江選手は、音楽やカメラが趣味で、曲の中での音の組み合わせや光の使い方等の要素はボディビルにおいてプラスに働いたそうです。実は、フリーポーズが芸術的と言われる選手には美的要素を多く含む趣味を持っている方が多く、嶋田慶太選手であれば盆栽、須山翔太郎選手であれば料理と、須江選手同様自身の趣味はボディビルにも大きく関わっているのだと思います。
今回は須江正尋選手について紹介させてもらいました。昨年のジュラシックカップでは「ボディビルは自分の生き様であり、続けることで誰かに何かを伝えられるならそれが自分の使命」とコメントされており、人間性すらも人を惹きつける魅力のある方だなと感じました。僕の中では、世界一カッコいい58歳だと思っています。昨年の日本選手権は惜しくもファイナリストから外されてしまいましたが、プレッシャーから解放されたことで、伸び伸び戦う須江選手が見られるかもしれませんね。レジェンドの今後も目が離せません。
次回は、日本ボディビル史上最強の肉体を作り上げた”伝説のチャンピオン”についてお話しします。お楽しみに!
▶次ページ:須江選手の世界選手権&ジュラシックカップステージフォト&ムービー
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