競技パフォーマンスアップやケガの予防に効果を発揮するストレッチ。とはいえ、柔軟性を高めるだけでは不十分であり、獲得した関節可動域をコントロールするには筋力の向上も必要だ。そこで今回はストレッチと筋トレの関係について、書籍『世界一細かすぎる筋トレ ストレッチ図鑑』でスポーツ動作パートを担当した八角卓克先生に聞いた(監修:日本体育大学教授・岡田隆)。

最大筋力アップと筋肥大。2つの目的において関節可動域の広さはプラス
――筋力の向上を図るために、関節可動域が広いことは利点となりますか。
「はい。最大筋力向上のためのトレーニングにおいて、関節可動域の広さはプラスの影響を与えることが研究でも示唆されています。たとえば2021年に行なわれた、これまでの研究結果をまとめて解析するメタアナリシス(Pallarésら)では、フルレンジ(全可動域を使用して動作)とパーシャルレンジ(一部の可動域だけ使用して動作)で行なうトレーニングが神経的・機能的・構造的に及ぼす影響を調査しています。結果として筋力向上・筋肥大の効果は、フルレンジがパーシャルレンジよりも上であることが示唆されました」(ただし、腕など上半身の部位ではサンプル数が不十分だったため、明確な結果が得られていません)
――筋力アップを目的としたトレーニングは筋肥大効果も高いということですか。
「そうです。つまり、ボディメイクにおいても関節可動域の広さは良い影響があります。そもそも筋トレとは、骨格筋の伸長と収縮の繰り返しです。可動域が広ければ最大伸長・最大収縮の幅が大きくなり、各トレーニングにおける1レップごとの効果が高まりやすくなると考えられます。また、筋トレには『特異性の原理』というものがあり、使った可動域の分だけ筋肉が強化されていきます。関節可動域が5度広がるだけでも、これまで刺激されていなかった筋線維が動員されてさらなる筋肥大が起こる可能性があると考えられています。筋トレと可動域の関係性は、メニューの名称からも読み取ることができます。たとえば、スクワットは可動域の違いによって『フルボトム』、『パラレル』、『ハーフ』、『クォーター』と複数の名称が存在します。これらは呼び方だけでなく、トレーニングによって動員される大腿部の筋線維も異なることを意味します」
――負荷をかけたいターゲットに応じて、どの可動域でトレーニングをするか選択すると効果が上がりそうですね。
「その通りです。筋トレでは『筋肉に対する動作のどの位置で最も負荷がかかるか』によってトレーニング種目を分類し、その特徴を活かしてトレーニングメニューを選択する『POF(ポジション・オブ・フレクション)法』という考え方があります。POF法は種目を『ミッドレンジ種目』(負荷が最大化するのが可動域の真ん中)、『ストレッチ種目』(負荷が最大化するのが可動域の最大伸長時)、『コントラクト種目』(負荷が最大化するのが可動域の最大収縮時)に分類するもので、筋肥大の効果を上げることはもちろん、筋肉の形を整えるボディメイクの観点からも多くのトレーニーが実践しています」
――トレーニングにおいて広い選択肢を得るためにも、関節可動域を広げることが大切になるということですね。
「はい。各種目をPOF法で細かく分けることは効果的ですが、これによるトレーニングの質の向上は広い可動域を持っていることが前提条件です。とくに、最大伸長を狙う『ストレッチ種目』では、肉離れなどケガのリスクもあるため、ストレッチを行なって関節可動域を広げておくことは安全の観点から見ても有効となるでしょう」