30年の時を経てカムバックした衝撃の60歳 レベチの肉体で東京マスターズ優勝




「あの人、レベチじゃない…?」そんな声が観客席のあちこちから聞こえてきた。彼らの目線の先にいるのは、ゼッケン227番・青いパンツの男。名は紙田由起夫、60歳。「昔、大会に出てたのを見たことあるかも…」という言葉を聞き会場で配布されたパンフレット巻末の歴代優勝者一覧を見ると、第9回大会(1995年)・75kg以下級優勝者の欄に確かに彼の名前があった。

【フォト】これが本当に60歳のボディ?

6月28日に開催された第39回東京クラス別ボディビル選手権のマスターズ60歳以上級に出場した紙田は、まさに観客の感想通り、頭一つ抜けたバルキーなボディで見事に優勝。比較審査ではファーストコール(その段階での上位選手)で規定ポーズを披露した後、審査員の指示により一人だけ後列に戻る(つまり、これ以上審査の必要がない)という、言わば“優勝確定演出”のステージだった。

「ボディビルは30年ぶりで、勉強させていただくつもりで出場しました」と話す彼は、若かりし頃は野球に注力していたが、引退してボディビルに専念。東京クラス別75kg以下級優勝、東京選手権2位、ジャパンオープン選手権3位と輝かしい実績を残した。特にジャパンオープンでは上野克彦、津田宏という当時のトップビルダーに迫ったが、チームの依頼により野球の道へ戻って現役復帰。約30年間ボディビルから離れ、本格的なトレーニングを再開したのはつい数年前のことだった。

「ストレス解消ぐらいの軽い気持ちでトレーニング自体は続けていましたが、通っていたジムがコロナ禍で使えなくなってしまい、中野にあるゴールドジムウエスト東京に通いはじめたんです。そこで小沼敏雄さんに出会い、ボディビル復帰のお誘いを受けました。ちょうど還暦の節目ということもあり、新たな挑戦としてこの大会への出場を決めました」

サイズ、筋肉のカット、絞りと、ボディビルダーに求められる全ての要素においてとても60歳には見えず、圧巻の完成度を披露した紙田。このままマスターズクラスの日本大会で上位入賞も十分に目指せる位置にいるように見えたが、「筋肉量はやはり30年前に比べると落ちてしまっていますし、強みや弱みも、自分では全然わかっていないんです。本当に、まだまだ勉強中の身です」と、謙虚な姿勢は崩さない。

30年の時を経てカムバックを果たした“マスターズの新星”は、一歩ずつ、着実に積み上げてボディに磨きをかけ、次は7月13日の東日本クラス別選手権(東京・品川)のステージに立つ。

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