完全復活をかけてのトーナメント出場。順調に準決勝まで勝ち残った渡辺未詩は中島翔子と激突した。
「緊張してました。中島さんとのシングルはファン投票でベストバウトに選んでいただいたり、7月にダラスでやった試合が評価していただけたりして、期待されているのがよくわかっていたので、プロレスラーになってからベスト3に入るぐらいの緊張をしていたんですよ。そうしたら、試合中に足を痛めてしまって、それでちょっとペースが狂ってしまったんですよ……」
なにげないズレが試合ではアクシデントにつながることがある。この日はトップロープからダイブした中島のヒジが偶然にも渡辺の顔面にバッティング。見る見るうちに渡辺の左目が腫れあがっていく。何度もレフェリーが確認に入る。ここで試合を止められてもおかしくない状況だったが、渡辺は試合続行をアピールした。

「これは近くにいた人には聞こえていたかもしれないんですけど、私、思わず『もうムリ!』って大声で言っちゃったんですよ(苦笑)。シンプルに痛かったのと、顔を強く打つと涙が出るじゃないですか? それで視界が狭まっちゃって、もうムリだなって。ただ、一瞬、そうやって言っちゃったことでスーッと心が強くなれたというか、楽になったんですよ。それで試合を続けることができました。私、いままでの人生で逃げたことがないんですよ。強いからじゃないんです。私が大好きなアイドルの曲に『逃げてしまうほど強くない』って歌詞があるんですけど、まさにそうなんです。強くないから逃げられなかった。そんな過去のことを思い出したら『大丈夫だ。これぐらいの痛み、絶対に乗り越えられる!』って。だから諦めずに闘えました」
自分の弱さが試合中に出たら、それはもう負けフラグになるはずだが、それをプラスに転換させることができるのが彼女の強さであり、日々の練習に裏打ちされた肉体のタフさがあってこそ、である。
腫れあがった左目も大事には至らなかった。本人はそこまで腫れているとは気づいていなかったので、試合後、バックステージに戻るとたくさんの選手が「大丈夫?」とやってくる光景を見て、はじめて「そんな大ごとになっていたの?」と驚いたという。やっぱりタフすぎる!

見事、トーナメントを制覇した渡辺未詩は9月20日、大田区体育館でプリンセス・オブ・プリンセス王者の瑞希に挑戦する。1.4後楽園のリターンマッチが258日目にして、ようやく実現するのだ。おそらく王座転落から、ここまでに経験したことがリングに反映するはず。どのような試合になるのか楽しみである。