「歩き方がおかしい自覚はありますか?」南小桃から見る、女子プロレスラーのボディケア事情【前編】




「あの選手、ちょっと歩き方。おかしくないですか?」

ある日の後楽園ホール。女子プロレス団体『マリーゴールド』の試合を取材中に、一緒に見ていた知人からそう話しかけられた。

写真提供/マリーゴールド

【写真】南小桃の試合ショット&決めフォト

この日は記者席がいっぱいだったので、選手の入場ゲートの横から立って観戦した。ちょうど選手たちがリングに向かって歩いていく姿を背中から見送るような形になるので、たしかに歩き方などはよくわかる。

ただ、たまたま試合前にその選手が異常なまでに緊張しまくっている姿を目撃していたので「極度の緊張で動きがおかしくなっているのでは?」と答えると、知人は「そういう側面もたしかにあるとは思うけど、もっと根本的な問題だと思う」と言った。

知人は東京都渋谷区で『NISHINO SALON』を主宰するセラピストのJUNさん。プロレスに対する造詣が深く、多くのプロレスラーや関係者との交流がある方なのだが、かねてからプロレスに対して、体のケアの部分で危機感を抱いていた、という。

「事前のケアや試合後のクールダウンといったことができていないですよね? とくに女子プロレスの場合は自分の試合が終わったら、セコンドなどの雑務が待っているので心身ともに休む暇がまったくない。それが負傷につながっているんだと思います。海外のスポーツドキュメントを見ていると、どんな競技であっても控室には大きな施術ベッドが置かれていて、試合を終えた選手がすぐに施術を受けられるようになっている。日本のプロレス団体でも、それぐらい設備が整えばいいんですけど、すぐには無理ですからね」

そして、それはプロレス界に限らず、日本全体にも言えるものだという。

「日本は保険制度がしっかりしているので、子どものころから『ケガをしたら、体調を崩したら、とりあえず病院に行けばいい』というのが常識として育ってきている。つまり、ケガや体調不良を回避しようという意識が低いんです。逆に海外では医療費がとんでもなく高額な国が圧倒的に多い。そういう国で育った人たちは、常日頃から病院にかからなくてもいいように気を遣っている。多少、お金がかかっても日々のボディケアに励むほうが、いざ、体調を崩して病院に通うよりも圧倒的に経済的なんですよね。だから、ケガを未然に防げる可能性が高くなる。そのあたりを強く意識しないと、日本のスポーツは世界標準から取り残されてしまいますよ」

写真提供/マリーゴールド

いまや世界で日本人アスリートが大活躍しているが、たとえばメジャーリーグがそうであるように、受け入れ先のチームがボディケアに対してしっかりとした体制と設備を整えているので、ポテンシャルを最大限まで引き出せている、という見方もできる。

その話を聞いて、納得すると同時にちょっとゾッとした。入場時に歩き方がおかしく見えたのは若手の南小桃選手。彼女はデビュー前から幾度もケガに泣かされ、同時期に入門した選手たちに大きく差をつけられていた。おかしな歩き方と度重なるケガがリンクしているとしたら、ちょっと怖い話である。

JUNさんはセラピストなので医療行為はできない。あくまでも骨盤や関節の調整をして、ケガをしにくい体づくりをサポートするだけなのだが、一度、チェックしてもらったほうがいい、と思った。

試合後、南小桃に「歩き方がおかしいという自覚はありますか?」と尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「歩き方がちょっとおかしいとは思っていましたけど……でも、これって遺伝だから仕方ないですよね?」(後編に続く)

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