Tリーグ成功のカギは「誰にでもわかる明確な主役」【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第34回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

スポーツの秋ですね。さて、10月24日に卓球の新リーグ「T.LEAGUE」(Tリーグ)が開幕します。「世界№1の卓球リーグを実現する」というコンセプトのもと、男子は水谷隼、吉村真晴、丹羽孝希、張本智和、女子では石川佳純、平野美宇、早田ひなといった世界の舞台で活躍するトップ選手の参戦が決定。スポーツ界に新たな風を巻き起こす期待がかかります。

簡単にTリーグの概要を説明しておくと、2018—2019シーズンは、男女各4チーム、計8チームが参加。リーグ方式はホーム&アウェイ、及びセントラル方式を採用し、7回戦総当たり。計21試合を10月から2月までの期間で戦っていき、リーグ戦の上位2チームが3月に行なわれるファイナルで対戦。この勝者がTリーグの初代王者となります。試合形式は団体戦で、基本はシングルス3、ダブルス1の4マッチ。2—2の同点となった場合は延長戦(シングルス)で勝負を決します。一人の選手は1試合につき、2マッチに出場できるので、選手起用も勝敗をわけるポイントとなりそうです。

現在、日本の卓球は男女ともに非常に高いレベルにあり、リオデジャネイロオリンピックでは団体で男子が銀メダル、女子が銅メダルを獲得。個人でも水谷選手が銅メダルを獲得しています。伸び盛りの若い選手も多く、東京2020オリンピックでは、男女、個人・団体ともに金メダルの期待も高まっています。しかし、競技のレベルとリーグの興行としての成功はまったくの別物です。Tリーグが根付いていくには、卓球ファンだけでなく新しいファンの開拓が必要。そのためには「誰にでもわかる明確な主役」の存在が不可欠です。

1993年に開幕したJリーグが新しいファンを取り込むことができた背景には、地域密着うんぬん以前に、「誰にでもわかる明確な主役」の存在があります。開幕時のJリーグの主役は、三浦知良、ラモス瑠偉、武田修宏、北澤豪、柱谷哲二、都並敏史といった日本代表のタレントを数多く擁したヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)。メディアは「誰にでもわかる明確な主役」を中心に報道するため、スター軍団の知名度はどんどん高まっていきます。見る側は、このスター軍団がどんなゴールショーを見せてくれるのか? あるいはヴェルディに対して相手はどうやって食い下がるのか?……と、主役を中心に見ることで、Jリーグに対する予備知識がない人でも、試合に感情移入がしやすかったのです。また、主役が輝くことで対戦相手にも光が当たり、新たなスターが誕生。こうした主役を中心としたわかりやすさが、リーグの発展につながっていったと言ってもいいでしょう。

これと同様に、Tリーグも「誰にでもわかる明確な主役」が存在すれば、初めて見る人でも興味を持ちやすくなるはずです。では主役にもっとも近いチームはどこなのか? 男子ならその一番手は木下マイスター東京でしょう。このチームは日本のエース・水谷選手をはじめ、若き全日本王者・張本選手、日本代表の松平健太選手、大島祐哉選手らが所属する、いわばスター軍団と言えます。

木下マイスター東京に所属する張本智和選手

勝負の世界なので、必ずしもスター軍団が主役になるとは限りません。ただ、見る側としては、主役、軸を定めながら観戦したほうが、確実に興味は持ちやすくなります。Tリーグ発足を機に初めて生観戦してみようという人には、自分の中で主役を決めて見ることをオススメします。知名度の高い選手を擁する木下マイスター東京は、Jリーグ初期のヴェルディになれる可能性を秘めていると思います。女子では平野選手、早田選手の“みうひな”を擁する日本生命レッドエルフ、日本のエース・石川選手が引っ張る木下アビエル神奈川が、主役候補と言えるでしょう。

こうした新しいリーグの誕生は、スポーツファンとしては喜ばしい限り。Tリーグの発展は、日本国内にいながら競技力アップが可能となり、オリンピックや世界卓球での日本勢の躍進につながっていくことは間違いないので、何としても成功してほしいと思っております。生で見る卓球のスピード感や迫力はテレビでは計り知れないものです。ぜひ一度会場に足を運んでみてください。

★TリーグHPはこちら

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。