ここ数年、続々と新人がデビューしている東京女子プロレス。その中でも注目されているのがアイドルグループ・アップアップガールズ(プロレス)のメンバーでもある高見汐珠(たかみ・うた)。先日、開催された若手による『ねくじぇねトーナメント‘25』で見事に優勝。そのご褒美として11・9後楽園では遠藤有栖が保持するインターナショナル・プリンセス王座に初挑戦。ベルトには手が届かなったが、その実力と勢いを如何なく見せつけてみせた。

身長150㎝と小柄な彼女だが、その試合ぶりは非常にパワフルに感じる。なぜ、そう感じるのかといえば、試合中、ずっと大声で叫んでいるからだ。攻めているときも、やられているときも腹の底から声を出す。いつしか声に喜怒哀楽がのっかって、観客はどんどんリング上での彼女の姿に惹きつけられていく。
じつはこういうファイトスタイルは昭和から平成初期にかけての女子プロレスでは当たり前の光景だった。新人選手はとにかく声を出せ、と教えられ、セコンドについた先輩からも「声を出せ、声を!」と指示が飛んでいた。まだ客席が温まっていない前座試合、大きな声を出すことで会場全体を盛りあげる、というプロの技術である。それが2000年代になってどんどん減っていき、クールにカッコよく闘う選手が急増した。
なぜ、新人女子プロレスラーは大声を出さなくなったのか? あるベテラン選手に聞いてみると「やれ、と言われてすぐにできるものじゃないんですよ」と説明してくれた。
「ずっと声を出しながら闘うのって、ものすごく体力を消耗するんですよ。なんの準備もしないでいきなりやったら、おそらく5分で息があがる。昔は練習生のときから、声を出して試合をすること前提で鍛えられてきたから、みんな、当たり前のようにできていただけで、決して当たり前でも簡単でもないんです。それこそ日常生活から、大きな声で挨拶することを意識するレベルでいないと5分も10分も声を出しながら闘い続けることは無理!」

ということは声を出しっぱなしで闘っている高見汐珠はとんでもないスタミナの持ち主、ということになるが、本人は「えーっ!まったく意識していなかったです。昔からうるさい!ってよく言われていましたけど(笑)」。さすがにうるさいの延長線上にあるファイトとは思えない。すると、高見汐珠は「あっ、そういえば!」と過去のスポーツ経験を思い出した。
「もともと、そんなにスポーツは得意なほうではなかったですけど、小学校のとき、校内マラソン大会でボロ負けしたのが悔しくって『来年は絶対にリベンジしてやる!』って。そうなんです、昔から負けず嫌いんですよ。それでバドミントン部に入ったんです。バドミントン部ってコートでの練習が終わったあとに、とにかく走るんですよ。それを続けていたら、ものすごくスタミナがついて、次の年のマラソン大会では順位がものすごくアップしました。その後もバドミントンは続けていたので、そこでついたスタミナや体力がいまプロレスで役に立っているのかも!」
ちなみにバドミントンは「小学生でやりつくした」という理由で引退し、中学では卓球部に。高校進学時には「このままスポーツを続けていたら遊べなくなる」と運動はやめてしまったが、ほどなくして東京女子プロレスへの入門を決めたので、実質上、ずっとスポーツで体を鍛えてきた。なるほど、たしかに小学生のときにできた体力の礎をコツコツと上積みしてきた流れでプロレスラーになった、と考えると、現在のスタミナお化けっぷりにも納得がいく。
しかしながら、無差別級で闘う女子プロレスの世界において、小さな体は圧倒的に不利なのも事実。それを高見は「逆転の発想」で乗り越えようとしていた。
