「私、ちょっと疲れやすいかも…」そう思った少女の体は、数日で10㎏近く体重が増えてしまった。診断結果は『ネフローゼ症候群』。血液中のタンパク質が異常に尿に漏れ出してしまうことで、むくみが起こるという病気だった。そしてその闘病中に、副作用が出るリスクを理解しながらもステロイドを服用し、両側距骨壊死を発症し下肢障碍に。
しかし、彼女にはスノーボードがあった。橋口みどりは今、パラアスリートとしてパラリンピック出場を目指している。インタビュー全3回の最終回は橋口がなぜスノーボードで上を目指すのかのお話を。
初めて出た大会で、ゴール後にもらったスタッフの方の拍手がうれしかった

2021年3月、橋口みどりは初めて全国障害者スノーボード大会に出場した。
「じつは競技人口が少ないので、全国2位といっても3人しか出場していなかったんです。滑り自体はのろのろでゴールしたんですけど、スタッフの方が大きな拍手をしてくれていて。それが、とてもうれしかったんですよね。このままがんばっていけば日本代表にもなれるかもしれないですし、ちゃんとアスリートとして活動しようと思いました」
2年後、2023年の全国障害者スノーボード大会では優勝した橋口。着々とパラアスリートとしての実績を積んでいる最中だ。
「スノーボードの練習をしている間は、足首の障害や痛みのことをあまり考えずやっちゃうほうかもしれないですね(笑)。筋トレもガンガンやっちゃいますし。でも大事にしているのは、相談すること、共有することですね。自分の状態を、担当医だったりトレーナーだったり、私がどうなっても対処できるようなコミュニティを作っているのは、ほかのアスリートよりも強いと思います。
トレーニングをするときも、痛みが出ている個所は共有しておいて、リスク管理をしておくことは意識していますね。ただ、痛いのがデフォルトになっているので慣れてしまうんです。なので、痛みのレベルを数値化して、練習を続けられるレベルの痛みなのか、休みが必要な痛みなのかを判断しています。とはいえ、スノーボード自体ケガのリスクが高いスポーツです。痛いことには慣れてしまいがちですが、痛みに強くなるというよりも、痛くても自分がスノーボードのパラアスリートとしてパラリンピックに出るという目標を持っていて、そのために必要なトレーニングをこなしているという考えですね」
病気に罹りながらも日本代表になれるかもしれない……その姿を見せたい

橋口はインタビュー中、終始笑顔で語ってくれたのだが、この経験は想像を絶するものだ。彼女を突き動かすものは何なのだろうか。
「キザなことを言っていいですか(笑)。自分が病気に罹ったときは、すごく不安だったんですよ、毎日。いつかちゃんとした生活ができるのか、不安を抱えながら闘病生活をしていたんですよね。でも、今も病気の子たちはたくさんいて、病気と闘っているわけです。
当時の私の周りにいた子とは違う子たちが、私の姿を見て、病気に罹りながらも、もしかしたらスポーツで日本代表になれるかもしれない……そういう姿を見せられるのは、私しかいない思っているので、それが一番の原動力ですね。そういう役割を持って生まれてきたから、スノーボードができる体力を今与えられていると思うので、結果を出したいです。
以前お世話になっていたコーチの方が『パラスポーツで自分の人生を変えろ』と言ってくれたんですよ。チャンスをつかめる人間になりなさいと。スノーボードは個人競技ですけど、いつもスタート台に立って思うのは、みんなの力を借りてここに立てているということなんです」
インタビューから2日後、橋口はヨーロッパカップに出場し初戦・第2戦とも3位に入り、表彰台に上った。試合後、「個人的にはシーズンインにいい滑り出しができたかなと思っています。この結果も含め、また次につなげられるよう、練習をがんばっていこうと思います」とメッセージが届いた。
突然襲ってきた困難、そしてその困難を克服するためにリスクを承知の上で臨んだ投薬の結果の困難、これらの大きな困難をも糧に変えてきたのは、自身の院内学校での経験だった。
自分の人生を前向きにできるのは、結局は自分しかいない。橋口みどりという前を向き背中を見せてくれるパラアスリートがいることが、少しでも多くの人に伝わりますように。
