ボディビル界で今年の顔となったのが、日本男子ボディビル選手権を制した扇谷開登だ。もともとはマスキュラーフィジーク、クラシックフィジークの選手として活躍しており、2024年からボディビルに転向。同年の日本選手権では初参戦で4位という結果を残した。身長175cmにして仕上がり体重90㎏超えを誇る怪物王者に、飛躍の1年を振り返ってもらった。
【写真・動画】バルクモンスター・扇谷が日本選手権で見せたボディ
トレーニングにメンタル、いろいろなことを見つめ直した
――日本選手権では昨年の4位から飛躍し、初優勝を飾った1年になりました。振り返っていかがでしたか。
「ありがとうございます。妻や多くの方々に応援していただき、非常にうれしい結果を残すことができたので感謝の気持ちでいっぱいです」
――破竹の勢いで成績を更新する扇谷選手は、終始上り調子な印象です。
「それがじつは、今年はケガや体調不良、部隊の異動で消防士の仕事が忙しくなったこともあって、自分の中では『耐え抜いた』という印象も残った1年でした。とはいえその中で収穫も大きかったです」
――それは意外でした。ケガはどこを痛めてしまったのでしょうか。
「腕に張りが出てしまって、前腕や上腕二頭筋に上手く力が入らなくなり、懸垂や腕のトレーニングができなくなってしまいました。それこそ、一番調子がよかったのが5月くらいでしたね。そこがコンディションのピークで、体もすごくデカくなっている実感がありました。ただ、そこから体調を崩したり、先ほどのケガをしたりして、割と早い段階でベストコンディションではなくなってしまいました。そこからは我慢の期間が続きました」
――シーズン序盤の状態がよかっただけに、葛藤もあったかと思います。そうした中での収穫とは?
「トレーニングへの考え方が変わったことと、精神面の在り方を見直せたことです。トレーニングでいうと、今まではとにかく“強度命”でやっていました。高重量でとにかく負荷をかけて、筋肉を反応させれば大きくなるだろう。という考えです。ただそうすると、たとえば腕であれば本来狙った部位ではない箇所に負荷が逃げたりして、そうした積み重ねが、今回のようなケガにつながったのかもしれません。対象筋にしっかり効かせることを大事にして、その上でハードに鍛えることを意識するようになりました」

――たしかに扇谷選手のトレーニングといえば、常軌を逸したボリュームをこなされていますよね。
「今回はそこを考え直すきっかけになりました。効率も追求するようになって、ある意味“賢く”鍛えることを考え始めたと思います。あとは、追い込み続けるだけではなくて、休息している間にこそ筋肉は大きくなることを実感しました。確実に体が疲労していることを自分で気付いて、『休むべきだから休もう』という線引きを以前よりはできるようになったと思います。少し前までは疲れていても無理をすることが多かったのですが、だいぶ視野が広がりましたね。今回、不調の中で考えて踏ん張って、それが結果につながったことはすごくよかったですし、この経験はこれからも活きてくると思います」
――精神面で見直した点というのは「追い込みすぎない」ということでしょうか?
「そうですね。あとは、気分の浮き沈みをコントロールすることを心がけました。トレーニングをハードにやっていると、『右肩上がりで結果が出てほしい』と誰しも思うと思います。でも、ケガをしたり停滞期があったりして思うように伸びなかったり、下がることもあります。そこで落胆しすぎるとさらに調子が下がってしまうので、今年は『調子がよくない時は誰にでもある』と自分に言い聞かせて、あまりトレーニングの成果に一喜一憂しないようにしました」
――第3回JURASSIC CUP(10月19日)では惜しくもグランドクラス2位となりましたが、日本選手権の優勝は大きな勲章だと思います。今後についてはどう考えますか。
「あくまで自分の感覚ですけど、今年はジャンプにたとえると、しゃがんでぐっと踏ん張って踏ん張って……というような1年だったので、来年はこれをバン!と跳ねさせたいと思っています。今までは消防士の仕事をしながらボディビルをして、日本一を獲れたら自信になるし、その姿が誰かのためになればいいなと思っていました。今回、その目標を達成することができたので、これからのビジョンについては焦らず考えていきたいと思っています。仕事については本当に恵まれた環境で働かせていただき、まったく苦ではないので、感謝して仕事に励みつつ、新しい挑戦も模索していきたいと思います」(1月2日、13時公開の#2に続く)

