ボディビル界を取り巻く環境は、ここ数年で確実に変わり始めている。団体やカテゴリーの選択肢が増え、競技を取り巻く在り方も多様になりつつある。では今、ボディビルダーはどんな現実と向き合い、どんな生き方を思い描いているのか。日本男子ボディビル選手権を制した扇谷開登選手に、業界の現在地と競技者としての考えを聞いた。

“ボディビルで食べていける時代”はなぜ近い?
――ここからは業界全体に視点を移してお話を伺います。現在は多くのボディコンテスト団体や幅広いカテゴリーがありますが、そういった環境をどう見ますか。
「皆さんそれぞれが出たいカテゴリーで出たい大会に出るというのは、すごくいいことなんじゃないかなと思います。コンテストが幅広い層に門戸を開いたことに対して、競技者の数も増えていると感じますね。僕自身は競技志向なので、アンチドーピングを掲げる団体で日本一を目指したい思いがあり、JBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)の大会に出場しています。各自が目指すカテゴリーや演出の好みなどに合わせて、挑戦するステージを選べる時代になっていると思います」
――JBBFの理念でもある、アンチドーピングについてはどのように考えていますか。
「アンチドーピングを掲げる団体の大会に出場する以上、もちろんドーピングの使用は許されることではないです。考え方は人それぞれだと思いますが、僕はナチュラルで体をつくることが当たり前だと思ってやってきました。最近は若い選手が海外のトップ選手にあこがれて、トレーニングの知識や技量が未熟な中でドーピングを使い始め、健康被害が出てしまうケースを耳にすることがあります。好きで始めたボディメイクで健康を損ねてしまうのは、悲しいことだと思います」
――大会の多様化や各種SNSの発展などで、ボディビルダーのあり方も変わってきているように感じるのですが、その点についてはいかがでしょうか。
「可能性が広がっているんじゃないですかね。時代の変化もあると思いますが、ボディビルやそれに関連したことで稼げる時代になってきていると思います。以前は、ボディビルを続けるには定職に就かないと生活ができず、仕事があるがゆえにトレーニングに制約が出る。そうした点がひとつの壁だったと思います。今は選手にスポンサー企業がついたり、プロテインやアパレルなどで企業と広告契約を結ぶ選手が増えたりと、ビジネスチャンスが増えましたよね。そういう意味で、ボディビルで食べていける時代に近づいてきていると思います」

――2023年に産声を上げたJURASSIC CUPをはじめ、賞金ありの大会が広がっていることもその一助でしょうか。
「そうですね。ただ賞金については、そのお金で1年間生活できるのは一握りの優勝者だけなのが現状だと思います。もちろんモチベーションを高めたり、目標に設定したりする意味で素晴らしいと思いますが、今のところチャンスが幅広いのは、ボディビルを通じたビジネスのほうではないでしょうか。自分は契約したことがないので詳しくはわからないですが、サプリメント、アパレル、トレーニングギアなど、関連するアイテムがたくさんありますからね」
――まだ発展途上だと思いますが、競技者にとって夢のある環境ができつつあるということですね。
「はい。若い選手を筆頭に、『ボディビルやトレーニング関連で生きていきたい』と考える人が増えていると感じます」
――そういった願望を形にするには、どんな要素が必要だと考えますか。
「あくまで個人的な意見ですが、競技成績だけだと十分ではないと思います。もちろん成績も大事なんですけど、自分自身の人となりをSNSやさまざまな場で伝えて、共感してくれるファンを獲得して自分の価値を高めていくことが、夢を叶えるためには必要なのかなと思いますね」
トップ選手の選択が与える、理想のボディビルダー像への影響

――今年はトップ選手のニュースが多い1年でもありました。芸能界でも活躍する横川尚隆選手(2019年日本選手権王者)が、ボディビル世界最高峰「ミスターオリンピア」を目指してFWJ(Fitness World Japan)に出場したことがひとつです。
「本当にすごい挑戦だと思います。横川さんに関しては、プロカードがかかった大会を僕も観に行きましたが、ポーズをひとつとっただけで会場が湧くような絶対的な存在感がありました。以前からカリスマ性にあふれていて、本当にあこがれの選手です」
――日本選手権3連覇の絶対王者・相澤隼人選手が俳優転向を表明したことも衝撃的でしたね。
「相澤さんについては、当時現役の日本チャンピオンが俳優を目指すというのは一大決心だったと思いますし、若い選手への影響も大きかったのではと思います。自分はボディビル以外の活動についてはビジョンが不透明ですが、人間的な幅を広げたい気持ちはあるので、何か惹かれるものがあれば挑戦してみたいと考えるきっかけになりました」
――扇谷選手が競技者として目指す理想像とは?
「めっちゃ抽象的ですけど、『唯一無二で一番』でありたいと思いますね。体はもちろん、存在感やキャラクターなども含めて、他にこんな選手はいないと言われる存在が理想です。そういう意味では、横川さんは究極形だと思います。違う形になるとは思いますが、自分の持ち味を活かしてあのくらいの存在感を発揮できるようになりたいです」
――競技以外の点で言うと、目指す到達点はどのように考えますか。
「それこそレジェンドである木澤大祐さんのように、自分のジムを持ちたいという夢はあります。高い志を持った仲間たちが集まるような、そんな環境のジムを作れたら理想ですよね。スポンサーについていただけるような選手になったらそれこそ、『ボディビルダーとして生きていく』選択肢も視野に入ってくるのかなと思います。ただ、今の仕事も好きで職場への感謝の気持ちも大きいので、まずは目の前の仕事とトレーニングに全力で向き合って、自分を高めていきたいと思います」
――今後のボディビル界に対しての期待をお聞かせください。
「もっとボディビルやフィットネス競技が盛り上がって、注目度が上がっていけばいいなと思います。そのためには、JBBFでいうと自分たちのような上位の選手がトレーニングでより良い体をつくることはもちろん、いろいろな人を巻き込んで応援してもらう“インフルエンス力”のようなものも絶対的に必要だと思います。自分自身がそういう存在になって、ボディビル界をもっと盛り上げていきたいですね」(1月3日13時公開の#3に続く)
