風邪をひく、頭痛、筋肉痛、二日酔い……日常生活では何かと薬のお世話になる機会も多いもの。薬はドラッグストアやコンビニでも簡単に手に入る時代。だからこそ、使い方を間違えると大変! この連載では大手製薬会社で様々な医薬品開発、育薬などに従事してきた薬学博士の長谷昌知さんにわかりやすく、素朴な疑問を解決してもらいます。
Q.ステロイドは「筋肉増強剤」みたいな話も聞きますが、実際はどんな薬なのですか?
ステロイドは基本的にコレステロールからつくられています。コレステロールは六角形3つと五角形1つの構造を持っていて、同じ骨格を持つものはすべてステロイドと呼ばれます。そのため、一口にステロイドと言ってもいろいろな種類があり、どこでつくられるかによって、機能が決まってくるのです。
腎臓の少し上にある副腎でつくられるのが副腎皮質ステロイド。これは一般的に薬用で使用されているもので、炎症を抑えたり、免疫力を抑制したりする作用があり、リウマチや喘息、肺炎などの自己免疫疾患や炎症性のさまざまな疾患の治療に使われています。ステロイドは効果が強い反面、副作用が起こるのも事実で、お年寄りや女性が長期間使うと骨粗鬆症や感染症にかかりやすくなるなど、いろいろな副作用があります。大きな問題を避けつつ、ステロイドの恩恵を受けるためにも、医師や薬剤師の指導をきちんと守って服用してください。
一方、副腎ではなく、生殖器でつくられるステロイドには、女性を女性らしく、男性を男性らしく形作る働きがあります。例えば、女性ホルモンであるプロゲステロンは乳房や卵巣を成長・成熟させます。そして、いわゆる「筋肉増強剤」と表現されるのが、男性の精巣でつくられるテストステロンなどのアナボリックステロイドです。
アナボリックステロイドは、食事から摂取したアミノ酸からタンパク質をつくり出す作用があり、タンパク同化ステロイドとも呼ばれます。アナボリックは「構築する」という意味で、その名の通り体に筋肉を構築する作用があります。短期間で劇的な筋肉増強を実現するとともに、常態では得ることのできる水準をはるかに超えた筋肉成長を促す作用から、長年にわたって運動選手らの間で使用されてきました。ちなみに、「同化」の反対は「代謝」で、「分解する」という意味になります。
もちろん、アナボリックステロイドは治療薬としても使われています。たとえば骨髄不全の患者さんは血を増やすことができないため、アナボリックステロイドによって血をつくる細胞を増やしたりします。また、最近ではLOH症候群と言って、加齢によりテストステロンが低下する病気にも使われます。いわゆる男性の更年期障害といわれている症候群です。テストステロンが低下すると、鬱や性機能低下、認知機能の低下など、さまざま問題が起こります。テストステロンを一定レベルまで引き上げるためにアナボリックステロイドを用いるのです。
副腎皮質ステロイド同様、アナボリックステロイドにも副作用はあります。もっとも一般的な副作用は血圧上昇とコレステロール値の上昇。これにより、心筋梗塞や脳卒中などの心血管系の病気を誘発する原因ともなります。また、女性の場合は、男性っぽくなり、ひげが生えてきたりすることがあります。
このようにステロイドと言っても、病院で処方されるステロイドと筋肉増強剤のステロイドはまったく違うものです。ステロイド=筋肉増強剤ではないということを覚えておいてください。副腎皮質ステロイドは、男性ホルモン系のステロイドなどよりも圧倒的に製剤数が多いため、非常に弱いものからすごく強いものまで、段階が細かくわかれています。症状に合わせて使い分けてもらえば効果的に使うことができると思います。繰り返しになりますが、副作用が大きい薬でもあるので、使用法にはとくに注意してください。
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長谷昌知(はせ・まさかず)
1970年8月13日、山口県出身。九州大学にて薬剤師免許を取得し、大腸菌を題材とした分子生物学的研究により博士号を取得。現在まで6社の国内外のバイオベンチャーや大手製薬企業にて種々の疾患に対する医薬品開発・育薬などに従事。2018年3月よりGセラノティックス社の代表取締役社長として新たな抗がん剤の開発に注力している。
Gセラノスティックス株式会社