コスプレイヤーで現役の弁護士という異色の肩書を持つ小林航太さん。自慢の筋肉を武器に、2018年にはNHK『みんなで筋肉体操』に出演もはたしました。番組は話題を呼び、同年12月31日の『第69回NHK紅白歌合戦』にも進出。以来、各方面で引っ張りだことなった小林さんに、トレーニングの世界に足を踏み入れたきっかけを聞いてみました。
■価値観の根底は「面白いのか、面白くないのか」。
――“筋肉弁護士”として活躍中の小林さんですが、トレーニングと出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
小林:2013年に参加したコスプレのイベントで知り合った人が、すごく良い体をしていたことが始まりです。その人が「ワンピース」のジュラキュール・ミホークのコスプレをした写真を見たんですけど、すごくかっこよかったんです。衝撃を受けて、「自分も体を鍛えてコスプレをしたい」と思うようになりました。それから、まずは横浜の市営ジムに通うことにしました。
――コスプレを通じた出会いがきっかけとなったのですね。コスプレイヤーとして活動するようになったのはいつ頃からだったのでしょうか?
小林:大学2年生からです。もともとアニメやゲームが好きで、たまたまコスプレ衣装のつくり方が紹介されているサイトを見つけて「面白そうだな」と思ったんです。最初は“衣装つくり”の面に興味を持って、コスプレをするようになりました。
――トレーニングを始めてみて、体の変化などはいかがでしたか?
小林:やっぱり何もないところから始めると、どんどん成長しますよね。体の変化はわかりやすかったと思います。
――トレーナーから指導は受けていたのでしょうか?
小林:トレーナーの方から教わることはありませんでした。ただ、最初に通っていた市営ジムに世話好きのおじさんがいまして(笑)。こちらから「教えてください」と言わなくても、親切にいろいろなことを教えてくれるので、そういう方々にアドバイスをもらいながら、ノウハウを身につけていきました。
――そして、トレーニングで鍛えた体をどんどんコスプレに活かしていったのですね。
小林:トレーニングを始めてから筋肉を活かしたコスプレばかりやるようになりました。たまに服を着ているキャラのコスプレをすると、「あれ、なんで服着ているキャラをやっているの?」と言われるまでになって(笑)。体を鍛えたことで、筋肉キャラができるようになったことは良かったのですが、逆にコスプレ可能なキャラの選択肢が狭まることもあるんです。例えば、細身のキャラに関しては似せることができなくなってしまいました。
――コスプレの選択肢が狭まることにジレンマを感じることもあったのでしょうか?
小林:基本的に自分がコスプレするのは好きなキャラなんですよ。その中で筋肉が魅力的なキャラをできることが楽しいので、つらくはないです。
――トレーニングを続けることは大変だと思うのですが、熱中するようになったのは、どのような経緯があったのでしょうか?
小林:最初は「自分の体の変化が楽しい」という気持ちが大きくて、トレーニングを続けていくうちに、より大きな体に憧れるようになりました。もともと、そういう価値観は持っていたわけではなく、昔だったらボディビルダーの体を見ても「うわっ!」と思っていたのが、むしろ今は「かっこいい!」と思います。それは、実際に自分がトレーニングをするようになったことで、体を鍛え上げるまでの過程がどれだけ大変なのかということが理解できたからこそ生まれたリスペクトの思いでもあります。考え方の変化もあり、自分もさらに体を鍛えるためにトレーニングへのめり込んでいきました。
――トレーニングを本格的に始めたのは東京大学を卒業されてからですよね。
小林:じつは大学には6年いまして、その後1年の空白期間を経て、ロースクールに入ったんです。その直前の3月からトレーニングを始めました。
――どのような大学生活を送っていたのでしょうか?
小林:弁護士を志して東大の文科一類に入り、法学部に進みましたが、正直全然勉強していなかったんですよ。熱意もなく、とにかくダラダラしていました。無意味な生活を送っていたので、何もしていなかったという表現が一番正解だと思います。
――東大には石井直方先生のような、筋肉やトレーニングに精通している方が多く存在するイメージがあります。
小林:大学在学中に筋肉界隈の方々と関わりを持てなかったのは痛恨で、僕の人生で一番後悔していることなんです。その時期は本当に何もやってこなかったので。だから、もし昔に戻って大学生活をやり直せるのであればB&W部(ボディビル&ウェイトリフティング部)に入りたいです。
――2018年にはNHKで放送された「みんなで筋肉体操」に出演されるなど、現在はさまざまな活動をされていますね。
小林:筋肉体操の出演依頼は、TwitterアカウントにNHKのディレクターさんからDMでいただいたんです。深く考えると、弁護士がこういう番組に出ると何か言われないかという懸念もあると思います。ただ、自分の価値観の根底にあるのが、「面白いのか、面白くないのか」なんです。だから「面白そうだな」と思うと、体が先に動いてしまうんです。筋肉体操はすごく面白そうだったので、喜んで出演させていただきました。
――NHKのディレクターが小林さんを見つけたのは、小林さんがSNSなどで積極的な発信をしていたからだと思います。
小林:面白いことが好きで、みなさんを楽しませたいという思いがあるんです。Twitterなどでは筋肉系のネタ写真もアップしていますし、世の中のトレンドはつねにチェックしていますね。
小林航太(こばやし・こうた)
2018年8月、NHK『みんなで筋肉体操』に謎の筋肉弁護士として出演したことをきっかけに一躍時の人に。同年の大晦日のNHK紅白歌合戦では『みんなで筋肉体操』の共演者らと共に紅組天童よしみのステージを盛り上げた。2019年2月には初の著書『東大卒筋肉弁護士のもう後がない状況でも確実に結果を出せる超効率勉強法』(主婦と生活社)も出版し、弁護士業務の傍ら、各種メディア活動を重ねている。2019年7月、 法律事務所ストレングス設立に至る。
取材/高野昭喜 撮影/神田勲
協力/パーソナルトレーニングジムBiP飯田橋店