体幹のねじれの強い人のお腹を擦っていくと、例えば、右の内外腹斜筋のほうはスムーズにリリースされていくけれども、左の内外腹斜筋にはなんとなく引っ掛かりを感じるなどということがよくあります。
皆さんも、お風呂に入っている時や就寝前にぜひ自分のお腹を触ってみてください。最初は感じにくいかもしれませんが、数を重ねるうちに「おや? ちょっとこっちのほうが滑らかではないかも……」と思うことがあるはずです。
腹部を覆っていた“鎧”、いや“化けの皮”をはがすつもりで取り組んでみると、それまで取り繕っていたであろう体裁の裏側が見えてくるかもしれません。そうすることによって、本当にケアが必要なところがようやく見えてくるのではないかと思います。そういう意味で、腹部にはカラダのさまざまなトラブルの要因が集約される場所と言えるかもしれません。
これは余談となってしまいますが、以前、私の動作分析を実施してもらったところ、右のハムストリングが左に比べて筋力的に弱いという診断結果が出ました。もともと私は左足の偏平足が強く、かつ左脚外側の緊張が強いため、右のハムが有効に使えない動きになってしまっていることは、ある程度予測できていました。そこで、その対策として「弱点部位を積極的に筋トレで鍛えましょう」とアドバイスしていただいたことがあります。
しかし、それに対して、私は疑問に思うところがあった。なぜなら、筋トレして強化するより、むしろ左脚外側を臀部からストレッチやリリースしたりして緩めるほうがよいのではないかと思ったからです。つまり、筋力が弱い(低下している)のではなく、ただ単にバランスが悪かっただけではないか、と。
もし、トレーニングの処方を選択していたら、バランスを整えるどころか、かえって恐ろしいアンバランスを生んでいたのではないかと思います。
すなわち、厚化粧して整えていこうとするのではなく、いったん化粧を落として“素”に戻ろうというのがケアの基本。そのためにも、まずはお腹のアプローチからスタートして、さまざまな部位にかかっているブレーキ抵抗を取り除いてみてはいかがでしょうか。
山本康子(やまもと・やすこ)
鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、コンディショニングセラピスト。施術キャリアは30年。日本代表チームのトレーナーとしてトップアスリートのボディコンディショニングを手掛けてきた。その間、約6年に渡り外国人トレーナーと共にヨーロッパなど各地を転戦した経験によって、日本にはないスピリットを強く感じ、施術テクニックはもちろんのこと、人として現在もなお進化すべく努力を続けている。2004年に、アー・ドライ治療院、2013年に筋膜リリース専門のスカンディックケアを開業。施術者の育成と労働環境整備にも力を注ぐ。
Scandic care (スカンディックケア)
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取材/光成耕司