サプリメント実践的活用のスペシャリストである桑原弘樹さんが、サプリや栄養や肉体に関する疑問を解決する連載。第41回は、柑橘類などの酸味の元である「クエン酸」が体に及ぼす効果について。
■クエン酸は酸性ではなくアルカリ性
疲れた時に酸っぱいものを口にするというのは、昔から何となくやってきていました。夏の部活などでハチミツレモンを飲んだ時の、あのおいしさが忘れられない人もいるのではないでしょうか。
酸味の元であるクエン酸には、いくつかの効果が期待できます。
■効果その1:アルカリ性のため、野菜不足の体に効果的
クエン酸は酸味があることから酸性の物質と思われがちですが、じつは食品などから取り込まれたクエン酸は、体内でアルカリ性に変わります。そういった理由から、クエン酸を多く含む梅や柑橘類は、アルカリ性食品に分類されています。
一方、肉や魚、卵、穀類などは体内で酸性になるため、酸性食品に分類されるのです。体は弱酸性を維持することが好ましいのですが、動物性タンパク質や糖質を多く摂取する一方で、野菜が足りない食生活をする人は体が酸性に傾き過ぎる傾向になるため、クエン酸の摂取は効果的なのです。
■効果その2:エネルギー産出の重要な役割を担う
人はエネルギーをつくり出さなくては生存していけません。この場合のエネルギーとは、トレーニングや運動で使うエネルギーもさることながら、全身を構成している60兆個の細胞一つひとつでつくり出しているエネルギーという意味です。
細胞内のミトコンドリアにあるクエン酸回路が、そのエネルギー産出の重要な役割を担っています。糖質と脂質がエネルギーとなる二大原料とも言えますが、どちらも体内での代謝を繰り返しやがてクエン酸回路へと運ばれていきます。このクエン酸回路での中心的な中間代謝物が、クエン酸です。
例えば、運動をすると筋肉内のクエン酸合成酵素は活性化され、それに伴ってクエン酸濃度も上昇していきます。これはまさにエネルギーの産生が進んでいるということでもあります。逆に言えば、クエン酸が足りない状態はクエン酸回路の円滑性が損なわれ、エネルギーを効率的につくれない状況になってしまいます。
■効果その3:乳酸濃度を下げる
筋肉中の乳酸の代謝を進め、乳酸濃度を下げる効果があります。
これはグルコース(ブドウ糖)分解の調整酵素であり、乳酸の生成に強く作用するピルビン酸脱水素酵素(PDH=3種の酵素タンパク質が会合した複合体)にクエン酸が作用するためです。
乳酸は疲労物質ではなく、糖質のエネルギーが渋滞を起こした状態の時の一時保存のような役割です。したがって時間が経てば、あらためてクエン酸回路へと導かれてエネルギーの産生に使われていきます。
しかし一方で、乳酸が溜まることは筋肉をより酸性に傾けることになるため、確実に運動のパフォーマンスは低下しますし、強く疲労感を感じることになります。この乳酸を少しでも早く解消してやることが、トレーニングや競技のパフォーマンス向上、疲労感の軽減につながっていきます。
■効果その4:精神的な疲労感の軽減にも効果あり
クエン酸は抗疲労効果を有する食品素材ですが、その疲労は単に身体的な疲労にとどまらず、精神的な疲労感の軽減にも効果があるとされています。
これはATMTやVASといった精神作業効率を客観的に想定する手法や、主観的な疲労感を評価する手法によっても、疲労感の軽減傾向があることが確認されています。
もっとも、身体的な疲労は精神的な疲労にも通じますから、両者は一体と言えるかもしれませんが、少なくともトレーニング以外の事務作業などにおいても効果が発揮される素材と言えます。
■効果その5:グリコーゲンの合成促進
持久系の運動で肝臓と筋肉内のグリコーゲン(肝臓や筋肉で合成され蓄えられているエネルギーのもととなる多糖)が低下した後に、クエン酸とグルコースを一緒に摂取すると、グルコース単独での摂取よりも、肝臓内、筋肉内ともにグリコーゲンの合成がより促進されることがわかっています。
桑原弘樹(くわばら・ひろき)
1961年4月6日生まれ。1984年立教大学を卒業後、江崎グリコ株式会社に入社。開発、経営企画などを経て、サプリメント事業を立ち上げ、16年以上にわたってスポーツサプリメントの企画・開発に携わる。現在は桑原塾を主宰。NESTA JAPAN(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会 日本支部)のPDA(プログラム開発担当)。また、国内外で活躍する数多くのトップアスリートに対して、サプリメント活用を取り入れた独自のコンディショニング指導を行ない、Tarzan(マガジンハウス)など各種スポーツ誌の企画監修や執筆、幅広いテーマでの講演会など多方面で活躍中。著書に「サプリメントまるわかり大事典」(ベースボールマガジン社)、「私は15キロ痩せるのも太るのも簡単だ!クワバラ式体重管理メソッド」(講談社)、「サプリメント健康バイブル」(学研)などがある。プロフィール写真のタンクトップにある300/365の文字は、年間365日あるうち300回のワークアウトを推奨した活動の総称となっている。300日ではなく300回であることがポイントで、1日2回のワークアウトでも可。決して低くはないハードルだが、あえて高めの目標設定をすることで肉体の進化が約束されると桑原塾は考え、実践している。