私たちの日常生活を振り返ってみると、実は肘を曲げている機会が多いことに気づきます。今、PCの前で仕事をしている人、スマホを見ている人、家事をしているなど、活動中の人はほとんど肘を曲げた状態ではないでしょうか。
では、不活動中はどうか。就寝中の寝相を思い出してみると(いや、就寝中は思い出せませんね。寝入りばなまでと言ったほうが正確かも……)、肘を伸ばして姿勢正しく眠っている人なんてほとんどいないのではないでしょうか。むしろ、窮屈に感じるはずです(笑)。私の場合はどうかと言えば、お腹に両手を乗せて、寝入るのを待っていますが、やはり肘を曲げています。
肘を曲げる機会が多いということは、力こぶの象徴とも言える上腕二頭筋が短縮する機会が多いということであり、実はそれは頸部に詰まりを生み出す要因にもなっていることをも意味します。
会話の最中に無意識のうちに腕を組んで肩をすくめる体勢の人もよく見かけます。目上の人に対して失礼とみなされるしぐさですが、コンディショニングセラピストの立場から言えば、それは腕の重さを感じたくないがゆえの代償動作であることも少なくないと思っています。腕を組むことによって、その間は楽に感じられるのですが、同時に肩甲骨を持ち上げ、短縮している首や肩甲骨周囲のテンション(引っ張られ)によるストレスを緩和させる動作を無意識に行なっているのではないか、と。
ちなみに、そのときの手の状態をみると、手の甲が上を向いていることにも気づきます。そう言えば、PCのキーボードを打つときも手の甲は常に上です。
このように、私たちの日常生活では、肘を曲げ、手の甲が上を向く体勢(体が内側に縮こまっていく体勢)が定着したことによって、円背姿勢など、体幹に様々な影響を及ぼすようになっているとも言えます。
腕は体の中で自由度の高いパーツです。したがって、本来、肩からぶら下がった状態であることが自然ですが、現代人の腕の特徴は前述のように短縮する機会にあまりにも恵まれすぎているため、その自由度にブレーキがかかっているのではないかと考えるのです。そこで、今回は深部にかかってる根強いブレーキを解放するための、以下のようなストレッチを紹介したいと思います。
まず、一方の肩甲骨を下ろします(写真1)。
次に、上腕三頭筋(力こぶの裏側)を伸ばすために肘を遠くにもっていき(写真2)、前腕を外側に開いていきます(回外・写真3)。
そして最後に、手首を弓のようにしならせていきます(背屈・写真4)。
この4つの動作によって、自然にぶら下がった状態の腕に整えていきましょう。ストレッチ後には、写真5のように、右肩が開放されすっきりと落ちています。
もう一つ、腕・肩周囲のブレーキの要因になっている小胸筋(写真6の位置)にアプローチする方法についても紹介しましょう。
小胸筋は実は上腕二頭筋との関連性が高く、小胸筋が凝っていると、二頭筋は緩んできません。そこで、凝りをとるために、脇の下の写真7の位置に親指を当て、肋骨から前にグッと押し出すようにしていきます(写真8)。「痛い!」と感じる人は凝っている証し。
しっかりとほぐすことによって、体の中に潜んでいる種々のブレーキを解放し、腕本来の機能を取り戻したいものですね。
山本康子(やまもと・やすこ)
鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師、コンディショニングセラピスト。施術キャリアは30年。日本代表チームのトレーナーとしてトップアスリートのボディコンディショニングを手掛けてきた。その間、約6年に渡り外国人トレーナーと共にヨーロッパなど各地を転戦した経験によって、日本にはないスピリットを強く感じ、施術テクニックはもちろんのこと、人として現在もなお進化すべく努力を続けている。2004年に、アー・ドライ治療院、2013年に筋膜リリース専門のスカンディックケアを開業。施術者の育成と労働環境整備にも力を注ぐ。
Scandic care (スカンディックケア)
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取材/光成耕司