サプリメント実践的活用のスペシャリストである桑原弘樹さんが、サプリや栄養や肉体に関する疑問を解決する連載。第75回は、サッカーの長友佑都選手が実践する、タンパク質とともに良質な脂を摂取する食事法について。
■糖質を抑え、タンパク質と脂質を多めにする
私たちは運動時に限らず、糖質と脂質を二大エネルギー源として利用しています。
これはどちらかが100%ということではなく、運動強度に応じてその割合を調整しながら利用しているわけです。瞬発的な運動であれば糖質の割合は多くなりますが、マラソンなどになれば脂質を上手に活用していかなければ成り立ちません。
長友選手が行なっているファットアダプテーション(ファットアダプト食事法)とは、この比率をグッと脂質に傾けていこうとする試みです。日常的に有酸素運動やランの練習をしている人は、すでに脂質を活用しやすい状態になっているかと思いますが、ボディビルダーや通常は有酸素運動をしない人は、脂質の活用比率は低めかもしれません。
競技的にはトライアスロンやトレイルランといった、かなり長時間にわたる競技になればなるほど向いています。通常のマラソンでも取り入れる人はいますし注目もされていますが、絶対に試す価値があるか否かのちょうど分かれ目くらいではないかと思います。サッカーのように瞬発系と持久系が混ざり合った競技になると、極端なファットアダブテーションではなく、その要素を上手に取り入れるといったアレンジ型になってきます。
ボディビルやフィジークの場合は、減量に絡めて利用してみるとおもしろいかもしれませんが、ひとつ不安なのは筋量を落としてしまわないかという点です。やはり糖質は、アンチカタボリック(筋肉を分解させないようにすること)としては必要不可欠な栄養素と言えますから、アレンジ型で上手に取り入れるというスタイルのほうがいいでしょうし、アミノ酸やプロテインを従来以上に積極的に摂る必要があります。
実際のやり方ですが、本格的にやる場合には脂質の比率を80%くらいまで上げていきます。同時に糖質は必要最低限にして、残りはタンパク質を摂ることになります。この場合、糖質を摂らないという点と、タンパク質は不足させないという点がポイントとなります。
いきなりそこまでPFCバランス(三大栄養素の「P=たんぱく質」「F=脂質(脂肪)」「C=炭水化物」がどれくらいの割合を占めるかを示した比率)を崩した摂り方は弊害も出ますので、計画的に少しずつ糖質を減らして脂質にシフトさせていくのがいいでしょう。例えば夜は糖質をカットして朝は摂るとか、昼くらいから糖質をカットし始めるなどです。やはりブドウ糖は脳も含めてエネルギーの中心なので、甘くみてはいけません。また、脂質をしっかり摂ることも忘れてはいけません。
次にアレンジ型と言いますか、少し緩めのファットアダブテーションですが、この場合は以前に流行った「4:3:3ダイエット」のバランスで行ないます。P:F:Cの順番でいきますと、3:3:4の比率になります。糖質を抑え気味にして、タンパク質と脂質を多めにするバランスと言えます。そして食事の内容を変えるだけではなく、体内に糖質が少なく脂質が多いという状態を意図的につくって、さらに脂質が利用されやすくしていきます。
例えば朝一の糖質が少ない状態で、糖質ではなく脂質を摂取してから軽い有酸素運動をするといった具合です。この場合には通常の脂質でなく、とくにエネルギーとして利用されやすい中鎖脂肪酸(MCT)などを活用するといいでしょう。以前流行ったバターコーヒーなどを作って、それを飲んでから散歩などでもいいと思います。
ファットアダプテーションに取り組む際は、中鎖脂肪酸は利用するアイテムとしてひとつのポイントとなります。中鎖脂肪酸はココナッツオイルの成分としても人気の脂質ですが、通常の脂質とは構造が少し異なっています。
脂肪を構成しているのは主に脂肪酸という成分です。脂肪酸は炭素が鎖状につながった形をしていて、その長さによって短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の3つに分類されています。通常の食用植物油のほとんどは、炭素が12個以上連なった長鎖脂肪酸で構成されています。一方、中鎖脂肪酸からなるトリグリセリド(Medium Chain Triglyceride:MCT)は、炭素が8~10個で構成されていて、母乳、牛乳、乳製品の脂肪分に3~5%、ヤシ油、パーム核油などにも5~10%程度含まれています。
長鎖脂肪酸は、摂取した後は小腸からリンパ管を通じて吸収されます。リンパ管はその先で静脈に通じていて、やがて血管系を経て脂肪組織、筋肉、肝臓に運ばれて蓄積され、必要に応じて分解されエネルギーとなります。そのように消化吸収に時間がかかるため、摂りすぎると体脂肪として蓄積されやすいのです。
ところが、中鎖脂肪酸は消化吸収が早く、小腸からはリンパ管ではなく直接肝臓へ通じる門脈という血管から運ばれ、脂肪燃焼の場であるミトコンドリアへ容易に運ばれるので、脂質であるにも関わらず非常にエネルギーになりやすいという特長があります。中鎖脂肪酸はこの特長を活用して、1960年代から未熟児の栄養補給や術後の治療食など、医療用途に活用されていました。この中鎖脂肪酸を活用することで、脂質を蓄えるエネルギーではなく、使うエネルギーとして活用することが可能となりますので、ファットアダブテーションという観点から非常に役立つ素材なのです。
一日15時間程度の糖質をカットした状態によって、脂質の活用が促進されていくことがわかっていますので、前日の晩の糖質を控えめにして、朝一でMCTオイルを少し摂取してからウォーキングをするなどを、しばらく続けるのもいいかもしれません。
そのようにファットアダブテーションに向いている脂質は、他にもオリーブオイル、エゴマ油、亜麻仁油などがあります。一方でショートニングやマーガリンのように、トランス脂肪酸(脂質の構成成分である脂肪酸の一種)が多い脂質は避けておくべきと言えます。
糖質をカットしたり制限する際は、筋肉の分解が強くなりますから、タンパク質やアミノ酸の摂取をより積極的に行なうことも忘れないようにしてください。
桑原弘樹(くわばら・ひろき)
1961年4月6日生まれ。1984年立教大学を卒業後、江崎グリコ株式会社に入社。開発、経営企画などを経て、サプリメント事業を立ち上げ、16年以上にわたってスポーツサプリメントの企画・開発に携わる。現在は桑原塾を主宰。NESTA JAPAN(全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会 日本支部)のPDA(プログラム開発担当)。また、国内外で活躍する数多くのトップアスリートに対して、サプリメント活用を取り入れた独自のコンディショニング指導を行ない、Tarzan(マガジンハウス)など各種スポーツ誌の企画監修や執筆、幅広いテーマでの講演会など多方面で活躍中。著書に「サプリメントまるわかり大事典」(ベースボールマガジン社)、「私は15キロ痩せるのも太るのも簡単だ!クワバラ式体重管理メソッド」(講談社)、「サプリメント健康バイブル」(学研)などがある。プロフィール写真のタンクトップにある300/365の文字は、年間365日あるうち300回のワークアウトを推奨した活動の総称となっている。300日ではなく300回であることがポイントで、1日2回のワークアウトでも可。決して低くはないハードルだが、あえて高めの目標設定をすることで肉体の進化が約束されると桑原塾は考え、実践している。